看護師にとって腕時計は時間管理に役立つアイテムのように思えますが、実は多くの医療現場で着用が制限されています。
なぜ看護師が腕時計を「ダメ」とされるのでしょうか。
本記事では、感染予防や衛生管理の観点から腕時計着用が避けられる理由を解説し、代替アイテムや時間管理の工夫も紹介します。
安全かつ効率的な看護業務を支える情報をお届けします。
目次
看護師が腕時計を着用するのはダメ?その理由を解説
看護師の腕時計着用が制限される背景には、患者の安全を守る衛生管理上の理由があります。
患者さんの体に触れる機会が多い看護業務では、腕時計が感染源になるリスクや作業の妨げになる懸念から、多くの医療機関で着用が推奨されていません。
以下で具体的な理由を詳しく見ていきましょう。
感染リスクの増加
腕時計の表面やベルトには、皮膚の皮脂汚れや体液などが付着しやすく、細菌やウイルスが繁殖する温床になりがちです。
とくにベルトの裏側や金属部分には細かな隙間があり、完全に清掃しにくいため病原体が残りやすい状態になります。
そのまま患者さんに触れると、感染症を広げてしまう恐れがあります。
手洗い・衛生管理への悪影響
看護師は手洗いを徹底する必要がありますが、腕時計をつけていると手首まで十分に石鹸が行き渡らないことがあります。
衛生管理の基本である「肘から下は何もつけない(BBE: Bare Below Elbows)」の原則からも、時計は手指消毒の妨げになる装飾品とされています。
腕時計の裏側には汚れが隠れやすく、石鹸を洗い流すときにも邪魔になるため、十分に手を清潔にできなくなることがあります。
業務効率への支障
腕時計は日常の看護業務においても支障をきたすことがあります。注射や採血、点滴の準備など細かい作業中に時計が邪魔になり、針が当たって洋服に傷をつけたり、機器操作時に手首まわりが絡まったりする可能性があります。
また、時計の着脱に気を取られることで患者ケアに集中できないことも。こうした理由からも、医療現場では腕時計の着用は避けられています。
皮膚トラブルの可能性
長時間の腕時計装着は皮膚への刺激も招きます。汗や消毒薬が時計と肌の間に溜まると皮膚炎を起こすことがあり、皮膚のバリア機能が低下すると感染しやすくなります。
実際に、一部の専門家からは腕時計が皮膚バリアの妨げになり得ると指摘されています。皮膚トラブルを避けるためにも、通気性を確保する観点から腕時計は外すことが望ましいとされています。
腕時計がもたらす衛生上の問題点
前述の通り、装飾品である腕時計は看護の衛生管理上のリスク要因となります。具体的には、腕時計は汚れが付着しやすく、その影響で手指衛生の効果が低下する可能性があります。ここでは装飾品に関する医学的見地からの問題点をまとめます。
装飾品に付着する細菌
腕時計には目には見えない病原菌が付着しやすいです。人間の皮膚には常在菌が存在しますが、加えて病棟内で触れる医療器具や環境汚染からも細菌が付着します。
特に時計の接触部分には汗や体液が残りやすく、雑菌を繁殖させる温床となります。装飾品をつけたままでは、この細菌が患者さんに移るリスクも高まります。
清掃の難しさ
腕時計は多くのパーツや細かい隙間があり、衛生的に完全に洗浄するのが困難です。ベルトと本体との接合部や裏面には汚れが入り込みやすく、拭き取りだけでは不十分なこともあります。
また、腕時計は防水・耐水仕様であっても流水で洗えないものが多く、装着後の十分な消毒処理が難しい点も問題です。
手指衛生原則(BBE:肘から下は何もつけない)
多くの医療機関では、手指衛生の徹底のため「肘から下(BBE)」を無防備に保つことが重視されています。前腕に装飾品があると、消毒時に手首までアルコールが行き渡らず、細菌の死滅を妨げる可能性があります。
英国NHSなども肘より下に何もつけない方針を示しており、日本国内でも同様の考え方が拡がっています。腕時計はBBEの原則に反するため、手洗い・手指消毒においては外しておくのが衛生的です。
看護業務における腕時計着用のルールとガイドライン
世界的な衛生ガイドラインや日本国内の感染対策指針でも、腕時計や指輪といった装飾品の管理に言及があります。
看護師の現場ではそれらの指針に従い、安全なケアを行うための取り組みが進められています。
WHOやCDCの指針
世界保健機関(WHO)の手指衛生ガイドラインでは、特に手術時や無菌操作の前に腕時計・指輪・ブレスレットなど全ての装飾品を外すように強調されています。また、日常の患者ケアにおいても装飾品を避けることが推奨され、簡素な指輪1つ以外は着用しないよう求められる場合もあります。
米国疾病予防管理センター(CDC)も同様に、手術前の手指消毒時には時計や指輪の除去を明示しており、手指下の皮膚にも多くの細菌が存在することが分かっているため、可能な限り時計着用を控えるべきとしています。これらの国際的な指針が、看護師を含む医療従事者における装飾品の管理を後押ししています。
日本の医療現場での対応
日本でも感染対策を重視し、多くの病院や施設で腕時計の着用についてルールが定められています。
例えば、標準予防策の資料などには「患者ケア時は腕時計・指輪を外す」と明記されています。
救急隊員向けマニュアルでも手洗い前に「指輪、腕時計等は外す」よう指示されており、看護師教育や病棟内でも同様の指導が行われています。
これらの対応により、各施設では腕時計なしで業務を行う意識が定着しつつあります。
腕時計の代わりに使えるおすすめアイテム
腕時計を着用できない代わりに、看護師が時間を把握するための便利なアイテムやツールはいくつかあります。衛生面に配慮しながらも必要な時間を確認できる方法を見ていきましょう。
クリップ式ナースウォッチ
ナースウォッチは、衣服のポケットや胸元にクリップで留めるタイプの小型時計です。腕に直接触れないので手洗いや消毒時の邪魔にならず、清拭もしやすい点が特長です。時計部分を正面に向けて取り付ければ、立ったままでも簡単に時刻が確認できます。
- 腕に触れず衛生的:直接肌にあたらないので感染リスクが下がります。
- 衣服に取り付けて簡単確認:胸ポケットなどにクリップで固定して使用します。
- 手洗いの妨げにならない:業務後の手洗い・消毒もスムーズです。
L字バンド(ライト付ストラップ)
特に救急医療の現場で用いられるL字バンドも有効です。前腕側に巻きつけるストラップにLEDライトとストップウォッチが組み合わさっており、時計機能のない場所でも時刻や経過時間を計測できます。
手首ではなく前腕に装着するため、バイタル確認や処置時に手首が自由に使え、防水で消毒しやすい素材で作られているものも多いです。
院内の壁掛け時計とナースコール時計
病棟やナースステーションには必ず大きな壁掛け時計が設置されています。これらをこまめにチェックすることで腕時計なしでも時間を管理できます。
また、ナースコールシステムの端末には時計機能が付いている場合が多く、呼び出し対応中に時刻を確認することも可能です。チームで働く中で、壁掛け時計の確認をルーティーンにすることで、正確な時間意識が保たれます。
スマートフォン・デジタルツール
スマートフォンは手元で複数の機能が使える便利なツールですが、病棟内での使用は制限されている場合が大半です。ただし、休憩時間や待機中など許可された場面では、スマホ内蔵の時計やナース専用アプリのタイマー機能が活用できます。
院内無線LANが整備されている環境では、電子カルテやナースコールからも時間を確認できることがあります。いずれにせよ、患者さん対応の最中には通知音や画面操作が邪魔にならないようマナーモード設定などの配慮が必要です。
看護師の時間管理術と工夫
腕時計がなくても、看護師は効率的な時間管理術を駆使して多岐にわたる業務をこなしています。正確な時間管理は医療安全につながるため、以下のような工夫が一般的です。
業務の優先順位付け
看護師は多忙な業務の中で、薬剤投与や検査介助、ケア記録など様々なタスクを抱えています。そのため、投与時間が厳守される薬や緊急度の高い処置を最優先とし、その他の業務はそれに続けて行うようにします。
事前に業務リストを作成しておくことで、時間を決められた業務を忘れず効率良くこなせるよう工夫しています。
アラームやメモの活用
腕時計の代わりに、時計機能付きタイマーやアラームを活用することも有効です。投薬や検査予定時刻には、電子カルテやスマートフォン、点滴ポンプのアラーム機能で通知を設定します。
また、業務中にホワイトボードや手帳に重要な時刻を書き留めたり、引き継ぎ時に付箋メモで必要な時間情報を共有することもあります。こうした工夫で時間の見落としを防ぎます。
チームでの情報共有
看護師はチームで連携してケアを行うため、時間に関する情報共有が重要です。
勤務シフトの引き継ぎ時には次の看護師に患者の投薬時間や検査予定を明確に伝え、ナースステーションでは進捗状況をこまめに報告します。
また、ほかのスタッフとも協力して時間を確認し合うことで、個人の時計に頼らなくても適切に業務を進められます。
まとめ
- 腕時計は病院内で細菌付着や手洗いの妨げになるため衛生管理上のリスク要因となる。
- WHOやCDCなどの国際ガイドラインでも、医療従事者は手術時や患者ケア時に装飾品を外すよう推奨している。
- 代わりにナースウォッチやLバンド、院内の壁掛け時計などを活用し、衛生的に時間管理を行うことができる。
- 業務の優先順位設定やアラーム機能の利用、チーム内の情報共有などで正確な時間管理を工夫する。
上記のポイントを意識することで、看護師は腕時計なしでも安全・効率的に業務を遂行できます。感染予防と時間管理を両立させ、快適な看護現場づくりを目指しましょう。