乳児院で働く看護師は子どもたちに囲まれてやりがいを感じる人も多い一方、その労働環境はとても過酷です。夜勤やシフト制、精神的な負担などから職場を離れたいと考える看護師は少なくありません。
本記事では「乳児院の看護師が辞めたい」と思う理由と、その後のキャリアの選択肢について詳しく解説します。特に最近の傾向として、現場でのストレス要因や働き方の特徴を踏まえ、よりよい判断材料を提供します。これは乳児院で働く看護師本人はもちろん、乳児院での就職や転職を考えている人にとっても有益な情報となるでしょう。
乳児院の看護師が辞めたいと思う理由
乳児院で看護師として働くと、最初は小さな子どもたちと接することに魅力を感じて入職する人も多いものです。しかし実際には想像以上に重い責任が伴い、現実とのギャップに戸惑う看護師が少なくありません。24時間体制でのシフト勤務や夜勤、心身にのしかかる精神的な負担、給与面での不満、人間関係の悩みなど、複合的な要因が「辞めたい」という気持ちを強くさせています。
乳児院特有の業務内容や環境に慣れるまでに時間がかかるうえ、想定外の出来事に遭遇するとストレスが強まります。ここからは、乳児院の看護師が退職を考える主な理由を具体的に見ていきましょう。
給与・待遇への不満
乳児院は児童福祉施設であり、医療機関とは異なる予算配分で運営されています。そのため、一般的に病院勤務の看護師より給与が低い傾向があります。たとえば、多くの求人サイトでは乳児院勤務の看護師の年収は350万円前後とされ、病院勤務の看護師より約50万~100万円低めに抑えられる場合があります。夜勤手当や資格手当がつく場合でも、総額として見劣りすることが少なくありません。
また、賞与率や昇給幅も病院に比べて小さい施設が多く、勤続年数が長くなっても大幅な給与アップが見込めないと感じる看護師もいます。責任ある仕事をこなしていても給与面で納得できず、待遇に不満を持つことが「辞めたい」という動機の一つとなります。
夜勤やシフト制の負担
乳児院は子どもたちの安全と生活を守るため24時間体制で運営されており、看護師も夜勤を含むシフト勤務が必要です。夜勤がある生活は生活リズムを乱しやすく、長く続けると心身共に疲弊してしまいます。特に若い看護師や子育て中の場合、夜勤で家庭や育児との両立が難しくなることも少なくありません。
日勤の時間帯にも乳児達のお世話や急変対応、記録業務などで多忙ですが、夜勤時は担当人数が絞られていることが多く、一人あたりの仕事量が増える傾向があります。夜間でも子どもの急な発熱や泣き声に対応しなければならず、休憩時間も取りづらいことから、シフト制勤務そのものが大きな負担となり得ます。
精神的・感情的な負担
乳児院で暮らす子どもたちは、何らかの事情で家庭での養育が難しい状況にあります。虐待の経験がある子どもや、病気や障害を抱える子どもも多く、看護師は医療的対応だけでなく精神面のケアにも深く関わる必要があります。常に子どもの健康と成長に責任を持つため、些細な異変にも過剰に気を遣わなければならないストレスがあります。
また、乳児院では成長段階の子どもたちを長期的に担当することがあります。自分が育ててきた子どもが新しい家庭に戻ったり、施設を巣立ったりする際には深い思い入れが生まれ、別れの寂しさが大きな精神的負担となります。このような情緒的な負担感は病院勤務とは異なるもので、感じ方によっては大きな重荷になります。
期待とのギャップ
乳児院で働く前のイメージとして「赤ちゃんのお世話ができて癒されそう」といった期待を抱く人は多いです。しかし実際には、看護師の仕事にはオムツ交換や食事・入浴介助、記録作成など、専門外の業務も多く含まれます。自分が想像していた「看護師らしい仕事」と、現場での仕事内容とのギャップに戸惑うことがあります。
たとえば、子どもとの直接の触れ合い時間が少なく、保育士や職員と協力しながら間接的に支援する場面が多いことに気づく看護師もいます。また、医療処置の機会が少ないために自分の看護スキルが活かしきれていないと感じ、業務に物足りなさを覚えることも。こうした期待と現実のギャップは、入職後のモチベーション低下につながりやすい要因です。
人間関係・職場環境の問題
乳児院は少人数で運営される施設が多いため、スタッフ間の人間関係が密接になります。長時間一緒に働く中で、人間関係の悩みが生じる可能性もあります。たとえば、上司や経営層との意見の相違、保育士やソーシャルワーカーとの役割の違いによる不満など、他職種との連携でミスコミュニケーションが起こることがあります。人手不足で一人当たりの仕事量が多い施設もあり、些細なことで周囲との摩擦が生じることがあります。
また、児童福祉施設は行政・社会福祉法人などが運営する場合が多く、独自のルールや制約が多い場合があります。施設の方針や決まりごとが多岐にわたる中で、それに従うのが難しいと感じることもあります。さらに、過去に乳児院に関連した事件が報道された施設では、職場の雰囲気が緊張しやすく、ストレスを感じる要因になることもあります。
キャリアやスキルへの不安
乳児院の看護師は主に健康管理や日常生活支援に従事するため、専門的な医療行為に触れる機会が少なくなりがちです。そのため、技術的な成長やキャリアアップに不安を感じる看護師もいます。たとえば、自分の看護スキル(注射や救急対応など)が鈍ってしまうのではないか、あるいは専門分野の知識を深める場が限られているのではないかと心配になるケースがあります。
特に若手看護師の場合、数年間乳児院で経験を積んだ後に「もっと専門性の高い医療現場で経験を積みたい」と転職を考える人が少なくありません。キャリアの視点から見ると、乳児院勤務は他職種連携や子どもの心理支援などで学べる面もありますが、医療スタッフとしての専門性を重視したい看護師にとっては物足りなさを感じることがあります。
乳児院看護師の仕事内容と職場環境の実態
乳児院で働く看護師の仕事は、保育園や病院とは異なる特徴があります。まず乳児院は、保護者がいない乳幼児を預かり心身の成長を支える施設です。看護師は入所児童の健康管理や成長支援を主な役割とし、保育士や栄養士、ソーシャルワーカーとチームを組んで運営します。
具体的には以下のような業務が中心になります。
- 乳幼児の健康状態チェックや服薬管理・投薬
- 定期健診や予防接種の実施・補助
- 食事や排せつ、入浴など日常生活のサポート
- 発育支援(遊びやリハビリ・運動プログラムへの参加支援)
- 保護者や養育者への健康相談や生活指導支援
- 保育士や他職種スタッフとの連携・情報共有
このように、乳児院の看護師は病院の看護師よりも広範な領域のケアにかかわります。日々の仕事では児童の生活全般に目を配り、夜勤などを含めた長時間体制で運営するため「介護施設に近い働き方」と感じることもあります。
1日の流れ:看護師のスケジュール
乳児院の看護師の1日は、主に以下のような流れで進みます。あくまで一例ですが、勤務時間は早朝シフトから夜間シフトまで多様です。
- 【早朝】施設到着後、夜勤者からの引き継ぎを受け、夜間の児童の状況・体調変化を確認します。
- 【午前】朝食の準備・配膳を行い、食後は子どもたちの着替え・歯磨き・排せつ支援を実施します。その後、健康診断や検温、服薬支援などの健康管理業務を行います。
- 【昼時】午前の記録業務や児童の昼食介助を行い、昼寝や休息のサポートも行います。記録整理や保育士との情報共有、児童の急変対応も行います。
- 【午後】おやつの配膳・後片付けをし、昼寝が終わった児童の着替えや遊び・リハビリ支援を行います。夕食準備の補助や夕方の健康チェックもこの時間帯に行います。
- 【夕方~夜】児童をお風呂に入れたり就寝の準備を手伝ったりし、夜勤看護師への引継ぎを行います。夜勤では主に夜間の居室巡回や児童の状態チェック・緊急対応などを担当します。
このように乳児院では、食事や排せつなどの生活支援が看護師業務の大部分を占めます。同時に定期健康観察や緊急時の対応も欠かせず、シフト間の引き継ぎや記録管理も重要な業務です。病院看護師と比べると専門的な医療処置は少ないものの、乳児院ならではの業務が多岐にわたる点が特徴です。
夜勤・24時間体制の特徴
乳児院は昼夜を問わず児童を安全に守る必要があるため、看護師も夜勤や早番・日勤・遅番のシフト制勤務が一般的です。夜勤帯は日勤時より児童数が減ることがありますが、一人でも子どもの急変やトラブルが起きれば即時対応が求められます。夜勤時は通常より少人数での運営となるため、一人あたりの責任範囲が広くなります。
そのため、夜勤明けの疲れや不規則な生活リズムからくる体調不良を経験する看護師もいます。週末や祝日も含めて勤務シフトを組む必要があるため、必要な休息が取りにくくなり、生活の質の低下を感じることがあります。
他職種との連携:チーム医療
乳児院では看護師、保育士、栄養士、ソーシャルワーカー、児童指導員などさまざまな専門職がチームを組んで働いています。看護師は児童の健康管理だけでなく、他職種と密に連携して児童一人ひとりのケアプランを作成・実行します。
例えば、保育士が日々の遊びや保育行事を担当し、栄養士が食事管理を行う中で、看護師は健康上の観点から助言や介入を行います。児童の体調不良時にはすばやく情報共有し、医療機関への受診調整を行うことも看護師の重要な役割です。多職種チームで支えることで児童を総合的にサポートできる反面、意見が分かれた際にはコミュニケーションに苦労する場面も出てきます。
給与・待遇の傾向
乳児院の看護師は社会福祉法人や自治体が運営母体となることが多く、福利厚生面で安定しているというメリットがあります。例えば、退職金制度や産休・育休制度が整っている施設もあります。しかしその反面、給与水準は病院勤務に比べて低めに設定されるケースが一般的です。
実際に乳児院の看護師求人を見ると、常勤であれば月給は20〜25万円台(年収換算で350〜400万円程度)が一つの目安となっています。病院勤務で夜勤手当や専門手当が多くつく場合には、同じ労働量でも総支給が高くなる傾向があります。こうした給与待遇の違いは働き始めてから大きく感じられ、ライフプランを考える上で不満の原因になることがあります。
辞めたい気持ちになったときに取るべき対策
「辞めたい」と感じたとき、まずは感情に任せて幕を下ろすのではなく、冷静に状況を整理することが大切です。自分が乳児院で働くうえで特に何にストレスを感じているのかを把握し、解決可能な課題なのかを考えてみましょう。以下ではその具体的なステップや対策を紹介します。
まずは原因を整理する
辞めたいと思う原因は人それぞれです。乳児院での業務そのものにやりがいを感じていないのか、プライベートとの両立がむずかしいのか、あるいは職場の人間関係や環境が合わないのか、まずは原因を明確にしましょう。紙に書き出したり信頼できる同僚に話したりすることで、自分でも気づかなかった問題点が見えてくることがあります。
原因がわかれば、「この部分を改善できれば続けられる」といった対策も考えやすくなります。逆に「看護師という仕事自体に疑問を感じている」場合には、職種変更も視野に入れてキャリアを見直す必要があります。
上司や同僚への相談
悩みを一人で抱え込まず、まずは信頼できる上司や先輩、同僚に相談してみることも有効です。勤務シフトの調整や担当児童の分担など、業務面で悩みがある場合には話し合いで働き方を見直せる可能性があります。また、職場内での人間関係に問題がある場合には、職員同士でコミュニケーションをとり、お互いの仕事への理解を深めるよう試みることも一つの方法です。
施設によっては職員会議や職員研修、職員交流会などの機会が設けられていることがあります。積極的に参加して他職種との連携や意見交換を行い、職場環境の改善につなげましょう。相談しづらい場合は、看護師外の第三者(カウンセラーや相談窓口など)に助言を求めるのも一つの手です。
休職や異動を検討する
精神的・身体的に大きな負担を感じている場合は、最終的に退職せずとも休職制度を利用する方法があります。医療機関や社会福祉施設ではメンタルヘルス不調への対応として休職制度を設けていることが多いので、必要と感じたら会社の規定を確認してみましょう。一定期間休養し、専門医やカウンセラーの診断を受けることで心身の回復を図ることができます。
また、同じ組織内に育休復帰後の配置転換や他施設への異動制度がある場合もあります。乳児院での勤務が合わないと感じたときは、同法人内の保育園や高齢者福祉施設への異動を申し出ることで、新たな環境で職務に従事できる可能性があります。このように、退職以外にも解決策がないかを検討することが重要です。
心身のケア・リフレッシュ
日常的にストレスが溜まっていると感じたら、意識的に休息の時間をとることが大切です。十分な睡眠、栄養バランスのとれた食事、適度な運動は基本ですが、趣味や友人との会話など精神的なリフレッシュ方法も重要です。有給休暇を活用してまとまった休みを取ったり、旅行や習いごとで気分転換を図るのも効果的です。
また、職場外での相談先を確保しておくのも有効です。看護協会や職員組合が運営する相談窓口、病院の産業医やメンタルヘルス支援制度、外部のカウンセリングサービスなど、専門家の力を借りることで気持ちが軽くなることもあります。自分一人で抱え込まず、心身の健康を優先しましょう。
看護師向け相談窓口や支援制度の活用
看護師は24時間365日、命に関わる仕事を担っており、心身の負担が大きい職業です。そのため、看護師のための相談支援制度が各種用意されています。たとえば、日本看護協会や地方の看護協会では電話・メールでの相談窓口を設けていたり、ワークライフバランス支援プログラムを提供している場合があります。
また、自治体や医療機関によっては産業カウンセラーや精神科医による相談サービスが利用できることもあります。自分が所属する職場にこうした制度がないか調べてみたり、看護仲間に情報収集を依頼したりしてみましょう。専門家に悩みを話すことで、客観的なアドバイスを得ることができる場合があります。
乳児院の看護師が辞めた後に考えられるキャリア
乳児院での経験を活かしながら、看護師として新たな道を選ぶことも可能です。以下に、乳児院の看護師が次に選びやすいキャリアの方向性をいくつか紹介します。
病院小児科や産科での勤務
乳児院でのケア経験を持つ看護師は、小児科や産科病棟で即戦力となることが期待されます。病院の小児科・NICU・産科では新生児や乳幼児へのケアが求められ、乳児院で培った観察力や乳児対応の経験が生かせます。給与水準は乳児院よりも高めで、専門性の高い医療現場で働けるチャンスがあります。
ただし病院勤務は一般的に夜勤・深夜勤がより多く、忙しさも増します。小児科系の病院であれば、赤ちゃんや子どもの急変対応に慣れる必要がありますが、その分キャリアアップの道も豊富です。乳児院の経験をステップに、小児医療に携わるキャリアを築く人も多くいます。
保育園・幼稚園・学校などでの看護職
乳児院同様に子どもたちと関わる職場として、保育園や幼稚園、学校の養護教諭(保健室の先生)などがあります。保育園や幼稚園では日勤帯のみで勤務できる施設が多く、子どもの成長支援に携わりながら育児支援や緊急時対応を行います。乳児院での乳幼児ケア経験を生かし、より規則的な勤務時間のもとで働く選択肢です。
学校の養護教諭になるには教員免許が必要ですが、福祉系大学出身なら養護教諭課程の単位がある場合があります。学校現場では思春期の健康管理や健康教育に携わることになるため、乳児院での経験とは異なる側面での子どもの成長サポートスキルが求められます。
訪問看護や在宅ケア
訪問看護ステーションや在宅医療の分野も選択肢の一つです。小児専門の訪問看護や療育施設向けの看護師として働くことで、乳児院で築いた乳幼児への理解を生かせます。訪問看護は一人や少人数で利用者宅を訪れるため、自分のペースで計画を立てて仕事ができる点が魅力です。夜勤がない施設も多く、乳児院での夜勤負担を軽減したい看護師には向いている場合があります。
ただし訪問看護では移動時間が増えたり、訪問先で他スタッフと協力したりする必要があります。高いコミュニケーション能力や、環境が整わない場所でのケア対応力が求められますが、緊急対応が比較的少ない分、ゆったりした雰囲気で働けることもあります。
障害児施設や児童健康センターでの仕事
発達障害や重度障害のある子どもたちの通所施設、児童福祉施設なども看護師の活躍できる場です。乳児院で乳幼児のケアに携わった経験があれば、身体的・知的発達に課題のある子どもたちへの対応にも応用できます。これらの施設では医療行為よりも日常生活支援が多い点は乳児院と共通していますが、障害の種類によってはより専門的なケア技術が求められることもあります。
また、保健所や児童相談所など行政の保健福祉系機関で、子育て支援や児童の健康相談を行う役割もあります。看護師の視点から子どもの安全を守る仕事として、地域の健康教育や母子保健活動に携わる選択肢も考えられます。
看護教育・行政職などの選択肢
看護師資格を生かせる非臨床職としては、看護学校の教員や衛生管理者など役職もあります。看護系専門学校や大学の教員になれば、後輩の教育に携わりながら安定した勤務が可能です(教員になるには別途教員免許状が必要です)。
さらに看護師→保健師の資格を取って行政保健の道に進む人もいますし、企業の健康管理室で衛生管理者として働く道もあります。これらは直接子どもと関わる仕事ではありませんが、健康管理の知識を生かして職場環境や会社員の健康を守る仕事です。乳児院で経験した危機管理やコミュニケーションスキルはこうした職場でも役立てることができます。
まとめ
乳児院で看護師として働くことには、一般の病院勤務とは異なる多くの課題があります。責任感の重さや不規則な勤務、自分の想像とのギャップなどが重なり、「辞めたい」と感じる看護師も少なくありません。しかし一方で他の職場への転職や役割変更により、乳児院で培った経験を別の形で生かすことも可能です。
重要なのは、まず自分が何に悩んでいるのかを明確にし、極端な結論を出す前に周囲のサポートや制度を利用することです。乳児院看護師として得た知識やスキルは小児看護や福祉看護の貴重な財産になります。本記事が今後のキャリアを考えるうえで参考になれば幸いです。どの道を選ぶにせよ、自身の健康と成長を大切にしながら、最適な道を探していきましょう。