患者や家族から理不尽なクレームを受けて疲弊し、「看護師を辞めたい」と感じる人は多いのではないでしょうか。2024年の調査では約9割の看護師が仕事を辞めたいと感じた経験があると回答し、その要因として激務や患者・家族からの過度な要求が挙げられています。
この記事では、看護師がクレーム対応で辞めたいと思う理由と、その対策・相談法を解説します。
目次
看護師がクレーム対応で辞めたいと感じる理由
看護師の仕事は患者の生命に直結する緊張感や高度な専門性を要する上、人手不足による長時間労働などで心身の負担が大きくなりがちです。このような労働環境では、クレームが発生しやすい土壌が生まれます。
過度な業務量と人手不足による疲弊
看護現場では慢性的な人手不足が深刻で、残業や休日出勤が常態化しがちです。重いナースコールや緊急対応、夜勤の連続などで体が休まらないまま働き続けると、疲労が蓄積し判断ミスやコミュニケーションの行き違いが増えます。
すると患者や家族から「対応が遅い」「説明が足りない」といったクレームを受ける可能性が高まり、看護師自身も「もっと早く対応すべきだったのに」と自分を責めてしまう原因になります。
患者・家族からの理不尽な要求
患者やその家族からは、医療サービス以外の過剰な要求や、私語や態度に関する細かなクレームが寄せられることがあります。例えば、「すぐに来てほしい」「他の患者ばかり優遇されている」といった要求は、看護計画上やむを得ない対応であっても受け止めきれない場合があります。
看護師は常に最善を尽くしているにもかかわらず、こうした要求や叱責を受けると「自分の仕事はこれで十分だったのか」と悩み、精神的に深く傷ついてしまうことがあります。
職場環境と教育体制の問題
職場の先輩や上司からのサポートが十分でない状況では、クレーム処理の負担が一人に集中し、孤立感が強まります。特に新人看護師は経験が浅いため、クレームを受けると自信を失いやすく、厳しい指導や叱責が続くと職場への居づらさを感じるようになります。こうした環境では、些細なことでも「もう無理だ」と感じてしまい、早期退職を考えるきっかけとなることがあります。
看護師へのクレームの実態とは?
看護師が受けるクレームは多岐にわたります。例えば、待ち時間が長い、説明が不十分、看護師の態度が冷たい、入院環境が不衛生、といった不満が挙げられます。これらは医療現場で日常的に起こるもので、往々にして患者側には医療知識が少なく医療システムを理解しきれていないことが背景にあります。
また、予期しない治療結果や合併症が生じた場合、患者や家族は説明が足りないと感じてクレームになることもあります。これらのクレームは個人の資質だけではなく、業務量やコミュニケーション不足も原因となっているケースが多いのです。
よくあるクレーム内容
看護師への代表的なクレームには、呼び出し(ナースコール)への対応への不満や病室・トイレの清掃が行き届いていないといったものがあります。その他にも、「治療計画や服薬指導の説明が分かりにくい」「症状変化への対応が遅かった」という意見も多いです。
専門用語を使った説明は患者にとって理解しづらく、それが「なぜこのようになったのか」「もっと早く対処できなかったのか」という疑問につながり、クレームに発展することがあります。
モンスターペイシェントや理不尽なケース
一部には、いわゆるモンスターペイシェントやモンスターファミリーと呼ばれる、常軌を逸した要求をする事例もあります。例えば、治療方針や説明内容に対して過剰にクレームを入れたり、看護師の私生活にまで立ち入るような細かい要求をする場合です。こうしたケースでは、どんなに誠実に対応しても患者側の期待に届かず、看護師が大きなショックやストレスを受けることがあります。
クレームが発生しやすい状況
クレームは混雑時や急患対応が多い時間帯など、業務が過密になる瞬間に起きやすい傾向があります。患者数が増える時間帯や、シフト引継ぎのタイミングでは看護師の手が一時的に足りなくなるため、一人ひとりに十分な仕事が回らなくなります。その結果、些細な不手際でも不満につながりやすく、いわば「時間的・人的余裕のなさ」がクレームの引き金となってしまうのです。
看護師が抱えるクレーム対応のストレス
理不尽なクレームが続くと、精神的に大きなストレスを感じるようになります。看護師は日々の仕事で多くの責任を背負っており、患者からの否定的な声に直面すると「自分の努力が報われない」「看護師の自分に価値があるのだろうか」と落ち込んでしまうことがあります。こうした気持ちが蓄積すると眠れなくなったり、体調不良を招く場合もあり、注意が必要です。
精神的プレッシャーとバーンアウト
連続するクレームや厳しい叱責を受けると、「自分には看護師の仕事が合っていないのでは」といった自己否定やプレッシャーが積み重なります。こうした状態が続くと、精神的に追い詰められ、仕事への意欲低下や倦怠感などの症状が現れます。最終的に燃え尽き症候群(バーンアウト)に至ると、抑うつや慢性的な疲労感が現れてしまい、仕事以外の日常生活にも支障をきたす恐れがあります。
身体的ストレスと疲労
高い緊張状態が続くと交感神経が活性化し、眠りが浅くなる、食欲が落ちるなど身体的な影響が出やすくなります。特に怒声やクレーム対応が多い夜勤では休息が取りにくく、疲れが抜けづらい状態が続きます。慢性的な疲労は免疫力の低下も招くため、体調を崩しやすくなり「仕事を続けられない」と感じる大きな要因になります。
人間関係や自己肯定感への影響
クレームを受けると自信を失い、同僚や家族にもやさしく接する余裕がなくなることがあります。また、周囲が忙しいと相談相手がいないと感じやすく、孤独感が高まります。このような状況では、小さな注意でも過剰に自分を責めてしまいやすくなるなど、自己肯定感が低下しやすいのです。
理不尽なクレームに負けない対処法
理不尽なクレームに対処する際には、正しい姿勢と方法が重要です。まずは冷静に相手の話を聞き、共感や謝罪できる部分はしっかり伝えましょう。一方で、身に覚えのない無理な要求には必要以上に落ち込まず、適切な距離感を保つ心構えも必要です。
傾聴と共感の姿勢を持つ
クレームを受けたら、患者や家族の話にじっくり耳を傾けて不満や不安を受け止めましょう。謝罪が必要な点は素直に謝り、問題解決に向けて動いていることを伝えます。相手の気持ちに寄り添うと、「この人は私の話をちゃんと聞いてくれた」という安心感が生まれ、感情的な反発を和らげることができます。
理不尽な要求の受け流し方
一方で、根拠のないクレームや不当な要求に対しては、全てを真に受けすぎないことも大切です。例えば、「すぐに結果を出してほしい」と言われても、現実的に不可能な場合は「状態を見ながら精一杯対応します」というように柔軟に対応しましょう。その際も、相手を否定せず穏やかに説明することで、過度に落ち込まずに自分のメンタルを守ることができます。
記録・証拠の活用と相談
不当なクレームやハラスメントに遭った場合には、会話を記録したりカルテに状況を詳しく記載するなど証拠を残すことも有効です。客観的な記録があれば、後から上司や第三者に説明しやすくなり、不当な要求に毅然とした対応が可能になります。あわせて、辛いと感じた際は早めに上司や相談窓口に報告し、一人で抱え込まないようにしましょう。
同僚と連携して支え合う
クレーム対応は一人で抱える必要はありません。周囲の先輩や同僚に相談して情報を共有しましょう。チームで連携することで負担が減り、悩みの解決策も見えやすくなります。例えば、定期的にミーティングを開いてクレーム事例を共有すれば、対応方法をチーム全体で学び合うことができ、精神的な支えにもなります。
クレームを減らすコミュニケーション改善策
クレームが発生しにくい職場を作るには、日頃から患者や家族への対応を見直すことが大切です。看護師側から情報を丁寧に伝え説明を充実させることで、患者の不安を減らし信頼関係を築けます。以下に具体的な改善策を紹介します。
丁寧でわかりやすい説明
診療内容や治療計画については専門用語を避け、分かりやすい言葉で説明しましょう。たとえば、検査結果や今後の処置手順を図解やメモで示しながら説明することで、患者や家族の不安を和らげられます。また、説明した内容をノートやパンフレットにまとめて渡すと、後から見返せて理解が深まります。
言葉遣いと態度の配慮
丁寧な言葉遣いや笑顔の表情など、基本的な接遇マナーを徹底することで、患者は安心感を得やすくなります。忙しいときにも早口にならず、落ち着いたトーンでゆっくり説明すれば「丁寧に対応してくれている」という印象を持ってもらえます。
さらに、患者の目線に合わせて視線を合わせる、うなずいて相槌を打つなど、相手の反応を確認しながら対応することで信頼関係が築けます。
チームで連携して対応
患者の経過や要望をチーム内で共有し、一貫した対応ができるようにしましょう。情報共有が徹底されていれば、担当者が変わっても同じ説明ができて患者の混乱を防げます。また、ケース検討会や研修会でクレーム事例とその対応策を学ぶことで、組織全体のクレーム対応力を高めることができます。
辞めたい看護師が考えるキャリア選択
クレーム対応のストレスから「看護師を辞めたい」と感じるときは、まず自分に合った働き方やキャリアを検討してみましょう。転職だけでなく病院内での部署異動や休職を含め、さまざまな選択肢があります。
部署異動や役割変更
現在の職場で配置転換を希望するのも一つの方法です。外来看護や訪問看護、保健師、助産師、教育担当など、自分の性格や生活スタイルに合った役割に異動できれば、業務の負担が変わりクレームの種類も変わることがあります。環境が変われば新たなやりがいが見つかる場合もあります。
休職やリフレッシュ休暇の活用
心身が限界に近いと感じたら、休職制度や有給休暇、リフレッシュ休暇を活用してみましょう。しばらく仕事から離れて休養すれば、感情が落ち着いて冷静に自分の進退を考えられるようになる場合があります。ただし、休職中も職場との連絡を絶やさず、復帰後の働き方を見据えて計画を立てることが大切です。
転職や他職種への挑戦
看護師としての経験を活かして別の職場に移ることも視野に入れましょう。病院以外にも介護施設、製薬企業や医療機器メーカーでのクリニカルサポート、訪問介護などがあります。また、医療ネイリストや講師業、看護研修の運営といった分野も看護師のスキルが生かせます。選択肢を広げることで新しいステージが見つかるかもしれません。
トレーニングやスキルアップ
専門知識や技術を磨いて自信をつけることも有効です。緩和ケアや救急看護、感染管理など専門研修を受講すれば、患者対応に対する不安が軽減しクレームを減らすきっかけになります。また、マネジメント研修などでリーダーシップを学ぶと、職場改善に貢献できる立場に就きやすくなります。
相談やサポートで乗り越える方法
クレームに悩んだときは一人で抱え込まず、周囲の力を借りることが重要です。病院や施設には相談窓口やメンタルヘルスの支援制度があるため、利用できるものは積極的に活用しましょう。
上司や先輩への相談
まずは信頼できる上司や先輩に悩みを打ち明けてみましょう。経験豊富な先輩は同じ悩みを乗り越えたことがあるかもしれませんし、具体的なアドバイスをくれることがあります。相談することで「自分だけじゃない」と心が軽くなり、一緒に解決策を考えてもらえることもあります。
メンタルヘルスケアと専門機関
職場の産業医や保健師、カウンセラーに相談したり、外部のメンタルクリニックを受診するのも有効です。心の不調は専門家に相談することで改善するケースが多く、プロの目線でのアドバイスや治療が受けられます。できれば早めに専門機関に連絡し、根本原因に対処することが望ましいでしょう。
同僚や看護コミュニティとの連携
同じ職場の同僚や看護学校時代の同期、看護師向けのオンラインコミュニティなどで悩みを共有するのも効果的です。他の現場の話を聞くことで自分の職場環境を客観視できたり、似た経験を持つ仲間から励ましやアドバイスをもらえます。共感し合える仲間がいることは大きな支えになります。
労働組合・第三者機関への相談
不当なクレームやパワハラ的な扱いを受けた場合は、労働組合や看護協会などに相談するとよいでしょう。これらの組織では法律的なアドバイスや働く権利についての相談を受け付けており、中立的な立場から対策を提案してくれます。必要に応じて労働基準監督署や看護連盟の窓口に相談する方法もあります。
まとめ
看護師がクレーム対応で辞めたいと思う背景には、激務や人手不足、患者・家族からの過度な要求など複数の要因があります。これらのストレスを放置せず、傾聴や説明を徹底してクレームを未然に減らす努力が重要です。
また、理不尽なクレームに対しては毅然とした態度で対応し、証拠を記録して相談することで精神的負担を軽減できます。辞めたいと感じたときは、一度環境を見直し、上司や同僚、カウンセラーなどに相談してサポートを得ることを検討しましょう。それでも解決が難しい場合は、休職や転職などを含めたキャリアの選択肢を考え、自分の健康と人生を優先することも大切です。
看護の仕事はやりがいも大きい反面、厳しい現場でもあります。周囲の支援を得ながら、心身の健康を守って前向きに働き続ける方法を見つけていきましょう。