看護師1年目は、環境の変化や責任の重さから心身の不調を抱えやすく、休職を考える方も少なくありません。どのくらいの期間休めるのか、給料やボーナスはどうなるのか、復帰できるのか不安を感じているのではないでしょうか。
本記事では、看護師1年目の休職期間の目安や病院の就業規則の考え方、メンタル・身体疾患での休職の違い、復帰までのステップを、医療現場の実情と法律の枠組みに沿って専門的に解説します。自分を責めすぎず、安心して今後を考える材料としてご活用ください。
目次
看護師1年目(新人)が休職する場合の期間の目安とは
看護師1年目の休職期間は、法律で一律に決まっているわけではなく、勤務先の就業規則や病院の規模によって大きく異なります。一般的には、私立病院や大学病院など多くの医療機関で「病気休職期間」を定めており、最短で3か月程度、長いところでは1年から1年半程度まで認めているケースが多いです。
ただし「1年まで休める」と記載があっても、実際にどのくらい休めるかは主治医の診断書の内容や症状の回復状況、職場の人員体制などを総合的に見て判断されます。特に新人看護師は試用期間中、あるいは採用から1年以内という扱いで、病気休職制度の対象外となる場合もあるため、早めに就業規則を確認しておくことが重要です。
また、メンタル不調での休職と、骨折や手術後など身体疾患による休職では、必要となる休職期間のイメージが異なります。メンタル不調は「しっかり休んでから戻る」ことが再発予防に直結するため、1~3か月単位での休職が選択されやすいのに対し、短期的な身体疾患では「有給休暇+数週間の休職」で復帰する例もあります。
1年目であることを理由に、本人が限界まで頑張りすぎる傾向も強いため、自分の感覚だけでなく、主治医や産業医、信頼できる上司の意見を参考に、無理のない期間設定を行うことが大切です。
新人看護師が休職を検討するタイミング
新人看護師が休職を考えるべきタイミングは「出勤はしているが、心身の不調で明らかに業務に支障が出ている状態」が目安になります。具体的には、出勤前に涙が止まらない、動悸や吐き気が続く、夜眠れず数時間おきに覚醒する、職場に向かうと強い恐怖やパニックを感じるなどの症状が代表的です。
これらは一時的なストレス反応であることもありますが、数週間以上続く場合は、適応障害やうつ病などの精神疾患が疑われる状態であり、「気合いで乗り切る」レベルを超えています。ミスやインシデントが増え、患者さんの安全にも影響し始めていると感じるなら、早めに医療機関を受診し、主治医の意見を踏まえて休職の必要性を検討すべきです。
一方、腰痛や頚肩腕症候群など、整形外科的なトラブルも新人看護師には多く見られます。鎮痛剤でだましだまし勤務を続けると慢性化・悪化しやすく、将来的な看護師人生にも大きな影響を与えかねません。数週間以上、痛みやしびれが続き、日常生活動作や夜間の睡眠に支障が出ている場合は、理学療法士のリハビリテーションを含めた治療や、一時的な業務軽減・休職を検討するタイミングと言えます。
一般的な休職期間の幅と上限
一般的な医療機関における病気休職期間の上限は、概ね「3か月~1年半」の範囲に収まります。国や自治体の公立病院、大学病院などでは、就業規則に「病気休暇」と「休職」を分けて定めていることが多く、最初の数か月間は有給扱い、その後は無給の病気休職として継続可能、という二段階型の制度を取っているところも少なくありません。
一方で、民間の中小規模病院や高齢者施設などでは、病気休職として認める期間が3か月程度までに制限されているケースもあります。これは、人員配置や経営状況の影響を強く受けるためであり、「半年以上休みたい場合は退職を検討してほしい」という運用になっている職場も存在します。このように、休職期間の上限は医療機関によって大きく異なるため、必ず自分が所属する組織の就業規則を確認することが不可欠です。
なお、法律上は「何か月まで休職させなければならない」という具体的な義務期間は定められていません。そのため、休職期間の長さや更新の可否は、会社と労働者の労働契約、および就業規則で決まります。ただし、解雇を行う場合には、労働契約法や判例に基づく「解雇権の濫用」にならないよう、休職期間や回復の見込みなどを総合的に判断する必要があり、合理性のない短期間での退職勧奨や解雇はトラブルの原因となる点も押さえておきましょう。
メンタル不調と身体疾患で異なる期間の考え方
メンタル不調と身体疾患では、休職期間の捉え方が異なります。例えば、骨折や手術後などの身体疾患の場合は、医学的に治癒の目安が比較的明確であり、「骨癒合まで約〇週間」「術後〇週間で軽作業復帰可能」といった形で、復帰時期を具体的に見通しやすい特徴があります。このため、有給休暇に数週間の病気休職を加えた、比較的短期間での復帰が想定されやすいと言えます。
これに対して、適応障害やうつ病などのメンタル不調では、症状の波が大きく、環境要因の影響も強いため、「表面的には働けそうだが、職場に戻るとすぐに再悪化する」といったことも少なくありません。治療の初期にはしっかりと休息を取り、その後は段階的に生活リズムを整えながら、最終的に職場に慣らしていくステップが必要です。そのため、1か月よりも2~3か月以上の休職期間を要するケースもあり、主治医の診断書に記載される「就労不可期間」を目安に、焦らず計画することが重要です。
また、メンタル不調の場合は、表面的に元気そうに見えても、注意力や判断力の低下、疲労感の残存などが強く、看護業務に必要な安全性を確保しにくいことがあります。新人看護師はもともと業務に不慣れであるため、少しの判断ミスが重大な医療事故につながるリスクも高く、十分な回復を待たずに復帰することは本人にとっても職場にとっても大きな負担です。この観点からも、メンタル不調での休職期間は「周囲が想定しているよりも長め」に設定されることが多いと理解しておきましょう。
病院の就業規則で定められる休職期間と確認ポイント

休職を検討する際、まず確認すべきなのが勤務先の就業規則です。就業規則には、多くの場合「病気休暇」「病気による休職」「休職期間満了後の扱い」などが明記されており、認められる休職期間の上限や、有給か無給か、社会保険上の扱いなどが定められています。
看護師1年目であっても、正式採用後であれば原則として他の職員と同様に就業規則が適用されますが、一部の施設では「勤続1年未満は制度の対象外」といった規定が設けられていることもあるため、細部まで確認する必要があります。特に、自分の置かれた状況を把握せずに「長期で休めるはず」と思い込んでしまうと、後々の生活設計に大きなズレが生じる危険があります。
就業規則の内容は、通常は人事課や看護部、職員用ポータルサイトなどで閲覧できますが、分かりにくい部分は遠慮なく人事担当者に質問して構いません。休職に関する制度は、法律と病院独自のルールが複雑に絡み合うため、専門職である看護師でも、一人で完全に理解するのは難しいことが多いです。疑問を抱えたまま話を進めるよりも、早期に情報を整理しておくことで、安心して治療や療養に専念しやすくなります。
就業規則のどこを見ればよいか
就業規則を確認する際は、まず「休職」「病気休暇」「病気による欠勤」といった項目を探します。多くの医療機関では、章立ての中に「服務規律」「給与」「休暇・休業」「休職」「退職」といった見出しがあり、その中に該当する条文が含まれています。看護師1年目にとって特に重要なのは、次のようなポイントです。
- 病気による休職が認められる要件(どの程度の欠勤で休職扱いになるか)
- 休職期間の上限(例:通算1年、1年半など)
- 休職期間中の給与の有無(無給か、一部支給か)
- 休職期間満了時に復職できない場合の扱い(自然退職など)
- 勤続年数や試用期間との関係(1年未満は対象外などの例外規定)
これらの条文を読むことで、自分が「どのくらいの期間、制度として休めるのか」「その間の生活費をどう考えるべきか」といった全体像が見えてきます。
また、同じ就業規則の中に「年次有給休暇」や「特別休暇」の項目があることも多く、病気休職に入る前に有給休暇を消化できるかどうかも重要なポイントです。有給休暇を先に使い、その後に無給の病気休職に移行すれば、手取り収入の減少を少しでも緩和することができます。条文だけではイメージしにくい場合は、人事や看護部に「自分のケースではどうなるか」を具体的に相談し、言葉だけでなく紙面やメールで整理してもらうと安心です。
公立病院と民間病院での違い
休職制度は、公立病院と民間病院で大きく異なることがあります。公立病院や公的医療機関では、地方公務員法などに基づいて「病気休暇」「病気休職」の制度が比較的手厚く整備されていることが多く、一定期間は有給の病気休暇、その後は無給の病気休職を1年~3年程度認めるケースも見られます。これにより、長期的な治療や療養が必要な場合でも、身分を維持しつつ休職する余地が比較的確保されています。
一方、民間病院では、病院の経営規模や方針によって休職制度の厚みが大きく変わります。大規模な医療法人や大学病院系では、公立病院に近い水準の休職制度を持つところもありますが、中小規模の病院やクリニックでは、病気休職期間を3か月から半年程度に制限している場合も少なくありません。また、休職中は無給となるケースが多く、収入面での不安が大きくなりやすい点にも注意が必要です。
さらに、民間病院では「試用期間中は病気休職の対象外」とする規定を設けているところもあり、看護師1年目の初期段階で長期欠勤が続くと、「休職」ではなく「契約終了」や「退職」の選択肢を提示されることもあります。このようなリスクを理解した上で、あらかじめ就職前に福利厚生や休職制度を確認することが、長期的なキャリア形成の観点から重要です。
試用期間中・1年未満の場合の扱い
看護師1年目が休職を検討する際に、特に注意が必要なのが「試用期間中」あるいは「勤続1年未満」のケースです。多くの病院では、採用から数か月間を試用期間とし、その間は本採用前の評価期間と位置付けています。この期間中に長期の欠勤や休職が必要となった場合、病気休職制度の対象外とされ、「試用期間の延長」あるいは「本採用を見送る」という判断がなされる可能性があります。
また、就業規則で「病気休職は勤続1年以上の職員に適用する」としている職場では、1年未満の新人看護師は制度上の休職が認められず、「有給休暇の範囲内で休む」「欠勤扱いとする」など、より不安定な扱いとなることがあります。このような場合でも、労働基準法などの法律によって一定の保護は受けられますが、長期的な身分の保証という点では、制度としての休職とは明確に異なります。
実務的には、試用期間中や1年未満での長期体調不良が生じた場合、主治医の診断書をもとに、看護部長や人事担当と個別に相談し、「一時的な休職」「配置転換」「退職して療養に専念」という複数の選択肢を比較検討することになります。どの選択肢が最適かは、症状の重さや回復の見込み、本人の希望、生活基盤などによって異なるため、一概に正解を決めることはできません。焦って結論を出さず、家族や信頼できる先輩にも相談しながら、自分にとって最も負担の少ない道を選ぶことが大切です。
メンタル不調で休職する新人看護師が多い理由

新人看護師が休職に至る背景として、メンタル不調が大きな割合を占めています。現場では、適応障害やうつ病、不安障害などと診断されるケースが増加しており、看護師1年目での離職理由としても「メンタル面の不調」は上位に挙げられています。
その理由として、看護師という職業の高い責任性と、急激な環境変化、夜勤を含む不規則勤務、人間関係のストレスなど、複数の要因が重なりやすいことが指摘されています。特に1年目は、学生から社会人への移行期であり、「できない自分」を受け入れにくい年代でもあるため、自己否定感やプレッシャーが一気に高まりやすいのです。
加えて、医療現場では今なお「頑張ることが美徳」という文化が根強く残っており、「1年目で休職なんて甘えではないか」と自分を責めてしまう新人も少なくありません。しかし、実際には、早期の段階で適切に休息と治療を取ることが、その後の長いキャリアを守ることにもつながります。メンタル不調は、決して珍しいことではなく、誰にでも起こり得る健康問題であるという認識を持つことが、まず重要です。
新人看護師が抱えやすいストレス要因
新人看護師が抱えやすいストレス要因は、業務面・生活面・心理面にまたがっています。業務面では、膨大な業務量と高い専門性に加え、医療安全へのプレッシャーが大きくのしかかります。インシデントやヒヤリハットを経験すると、「自分は向いていないのではないか」「またミスをするのではないか」という不安が強まり、出勤すること自体が苦痛に感じられることもあります。
生活面では、夜勤を含む交代制勤務により、睡眠リズムが乱れ、疲労が蓄積しやすくなります。学生時代との生活のギャップも大きく、家事やプライベートとの両立がうまくいかないこともストレス要因です。心理面では、「同期と比較して成長が遅い」「先輩から厳しく指導される」といった経験から、自己肯定感が低下し、抑うつ的な思考に陥りやすくなります。
これらの要因は、それぞれ単独であれば耐えられるレベルであっても、複数が同時に重なることで限界を超えてしまうことが多いです。また、真面目で責任感が強い人ほど「弱音を吐けない」「迷惑をかけたくない」と考え、自分の限界を見過ごしがちです。その結果、心身が悲鳴を上げてから初めて異常に気づくというパターンが少なくありません。
適応障害やうつ病での休職が増えている背景
近年、適応障害やうつ病など、ストレス関連のメンタル疾患で休職する看護師が増加しています。その背景には、医療現場全体の業務量増加や人員不足があり、1人あたりの負担が高まっていることが挙げられます。新人であっても、早期から戦力として数多くの業務を任される傾向が強まり、十分な教育やフォローが追いつかない状況も少なくありません。
また、コロナ禍以降の数年間で、感染対策や急変対応など、医療現場の負担は一段と増しました。その影響は現在も残っており、病棟の緊張感が高い状態が続いているところもあります。このような環境で、新人看護師が「失敗してはいけない」「休んではいけない」と自分を追い込みすぎると、心のエネルギーが急速に消耗してしまいます。
一方で、メンタルヘルスに対する世間の理解が進み、診断や休職につながりやすくなったという側面もあります。以前であれば「気のせい」「根性不足」と片付けられていた症状も、現在では医師が適切に診断を行い、必要な場合には休養と治療を勧めることが増えています。休職者数の増加は、単にメンタル疾患が増えたというよりも、「適切に治療を受ける人が増えた」という側面も含んでいると理解するとよいでしょう。
メンタル不調を放置した場合のリスク
メンタル不調を我慢して働き続けることは、短期的には「頑張っている」と評価されるかもしれませんが、中長期的には大きなリスクを伴います。適応障害や軽度のうつ状態の段階であれば、十分な休養と治療によって比較的早期に回復し、その後の再発リスクも抑えられる可能性が高いです。しかし、症状を放置して悪化させてしまうと、重度のうつ病へ進行し、回復までに半年から1年以上かかることも珍しくありません。
さらに、重度のメンタル不調では、集中力や判断力が著しく低下し、インシデントや医療事故のリスクが高まります。自分だけでなく患者さんの安全にも重大な影響を及ぼしかねないため、「とにかく出勤すること」を最優先にする姿勢は、医療者としても危険です。実際に、重大なインシデントをきっかけに自己否定感が強まり、症状がさらに悪化するという悪循環に陥るケースも見られます。
また、メンタル不調を抱えたまま働き続けると、人間関係にも悪影響が出やすくなります。イライラしやすくなったり、注意力の低下から同僚との連携がうまくいかなくなったりすることで、職場での孤立感が強まり、ますます状態を悪化させてしまうのです。このようなリスクを避けるためにも、「限界まで頑張る」のではなく、「限界の一歩手前で休職を含めた選択肢を検討する」ことが、自分と患者さんの双方を守る行動と言えます。
休職中の収入と社会保険制度(傷病手当金など)
休職を決断する際、多くの新人看護師が不安に感じるのが「生活費をどうするか」という問題です。休職期間中は、就業規則上の病気休職が無給となるケースが多く、そのままでは収入がゼロになってしまいます。ここで重要な役割を果たすのが、健康保険の傷病手当金をはじめとする社会保険制度です。
一定の条件を満たせば、休職中に標準報酬日額の約3分の2に相当する傷病手当金を受給できるため、生活費の大きな支えとなります。制度の仕組みや申請のタイミングを理解しておくことで、休職を現実的な選択肢として検討しやすくなります。
また、雇用保険の失業給付は「働ける状態で、仕事を探している人」が対象であり、病気療養中には原則使用できません。この点を誤解して「休職ではなく退職して失業手当をもらおう」と考えると、実際には何の給付も受けられないという事態になりかねません。休職か退職かを選ぶ際にも、社会保険制度の違いを押さえておくことが重要です。
傷病手当金の基本と支給条件
傷病手当金は、健康保険に加入している被保険者が、病気やケガで働けなくなり、給与が支払われない期間に支給される制度です。主な支給条件は以下の通りです。
- 業務外の病気やケガにより、労務不能であること
- 連続する3日間の待期期間の後も働けない状態が続いていること
- 休業中に給与が支払われていないか、支給されても傷病手当金より少ないこと
- 健康保険の被保険者であること(退職後も一定条件で継続支給可)
支給額は、原則として直近12か月間の標準報酬月額の平均をもとに算出され、その3分の2程度が1日あたりの支給額となります。支給期間は最長で通算1年6か月です。
看護師1年目の場合、加入期間が短くても、原則として加入後すぐに傷病手当金の対象となります。ただし、試用期間中や短時間勤務などで健康保険の加入条件を満たしていない場合は対象外となるため、自分が社会保険に加入しているかどうかを事前に確認することが重要です。また、メンタル不調による休職であっても、医師が「労務不能」と判断し診断書を発行すれば、身体疾患と同様に傷病手当金の対象となります。
休職中の給与・ボーナス・昇給への影響
休職中の給与やボーナス、昇給への影響は、病院の就業規則や賃金規程によって異なりますが、一般的には以下のような扱いが多いです。
- 休職期間中の基本給は無給、または大幅に減額される
- ボーナスは、支給対象期間の出勤率に応じて減額、または不支給となる
- 昇給は、「在籍年数」ではなく「勤務実績」に連動し、休職期間中は昇給対象外となることがある
新人看護師の場合、ボーナスや昇給額そのものはまだ大きくはありませんが、将来的な賃金テーブルの進み方に一定の影響を与える可能性があります。それでも、健康を犠牲にしてまで短期的な収入を優先することは得策ではなく、長期的なキャリアとして考えれば、適切なタイミングで休職し、回復してから働き続ける方が結果的に安定した収入につながることが多いです。
また、一部の医療機関では、休職期間中も一定割合の給与を保障する独自制度や、福利厚生としての医療費補助などを設けていることがあります。就業規則や賃金規程を確認し、不明な点は人事・総務に相談することで、自分のケースでどの程度の収入が見込めるかを具体的に把握しておくと安心です。
休職と退職で利用できる制度の違い
休職と退職では、利用できる社会保険制度が大きく異なります。休職中は、原則として会社との雇用関係が続いているため、健康保険や厚生年金の加入も継続されます。この状態であれば、前述の傷病手当金を利用しながら療養し、回復後に復職するという選択肢が取れます。一方、退職してしまうと、原則として企業の健康保険からは外れ、国民健康保険や任意継続被保険者制度に切り替える必要が出てきます。
退職後も、退職前から継続して傷病手当金を受給していた場合や、一定の条件を満たす場合には、同じ病気・ケガについて最長1年6か月までは支給が続くことがあります。ただし、「退職後すぐに新たに傷病手当金を申請する」ことはできないため、制度の利用を考えるのであれば、退職より先に休職を選択し、申請手続きを済ませておくことが重要です。
また、雇用保険の失業給付は「就労可能な状態で仕事を探していること」が前提となるため、病気やメンタル不調で就労不能と診断されている間は、原則として受給できません。この点を誤解して退職してしまうと、「傷病手当金も失業給付も受けられない」という状況に陥る危険があります。休職か退職かで迷っている場合は、主治医の意見と併せて、社会保険制度を総合的に踏まえた判断が求められます。
復職までのステップと期間の目安

休職を経て再び看護の現場に戻るには、段階的な準備が必要です。復職は、単に「病気が治ったから職場に戻る」というだけでなく、「安全に業務を遂行できる状態か」「再発リスクを抑えられているか」という視点から判断されるべきものです。
復職までのステップを大まかに分けると、医師の診断と治療、生活リズムの安定、職場との面談・復職プランの作成、短時間・軽作業からの試験的復帰、本格復職とフォローアップ、といった流れになります。これらのステップを十分に踏むことで、復職後に再び体調を崩してしまうリスクを減らすことができます。
特に新人看護師の場合、もともと業務に不慣れであることも踏まえ、復職後しばらくは教育的なサポートを継続してもらえるかどうかが重要なポイントです。休職前と同じペースで業務をこなそうとすると、負担が大きくなりがちですので、無理のない範囲で徐々に責任を増やしていく形が望ましいと言えます。
休職開始から復職決定までの流れ
休職開始から復職決定までの一般的な流れは次の通りです。
- 主治医を受診し、労務不能の診断書を受け取る
- 職場に休職の意向を伝え、就業規則に基づき手続きを行う
- 休職期間中は治療と療養に専念し、定期的に受診を続ける
- 症状が改善してきた段階で、主治医と復職可能性について相談する
- 主治医から「就労可能(条件付き含む)」と記載された診断書を受け取る
- 職場の人事・看護部と復職面談を行い、復職時期や勤務形態を協議する
- 必要に応じて試験出勤や短時間勤務から開始し、本格復職へ移行する
この過程で重要なのは、医師の診断と職場との連携を切らさないことです。
特にメンタル不調の場合、本人が「もう大丈夫」と感じていても、医師の立場からは「まだフルタイム勤務は負荷が高い」と判断されることがあります。逆に、本人は不安を感じていても、医師が「段階的な復職なら可能」と判断するケースもあります。自分の感覚だけでなく、専門家の視点を取り入れながら、無理のないペースで復職を進めることが大切です。また、復職面談では、勤務時間や夜勤の扱い、配属部署などについて具体的に話し合い、後から齟齬が生じないよう、書面やメールで内容を確認しておくとよいでしょう。
主治医の診断書と産業医面談の役割
復職の可否を判断するうえで、主治医の診断書は非常に重要な役割を果たします。診断書には、病名や症状の概要だけでなく、「就労可能かどうか」「可能な場合にどのような条件が必要か」などが記載されます。例えば、「日勤のみであれば就労可能」「週3日程度からの試験勤務が望ましい」「対人業務の少ない部署への配慮が必要」など、具体的な条件が示されることがあります。
一方、多くの医療機関では、休職や復職の際に産業医面談を行うことが一般的です。産業医は企業側に立つ医師ですが、労働者の健康を守る役割も担っており、主治医の診断内容や本人の希望、職場の状況などを総合的に踏まえて、復職の可否や条件について意見を述べます。産業医の判断は、会社としての正式な判断の重要な材料となるため、面談では自分の体調や不安、希望を正直に伝えることが大切です。
主治医と産業医の意見が完全に一致しないこともありますが、その場合でも、最終的には「安全に働けるかどうか」が最優先されます。無理な復職は再発リスクを高めるだけでなく、職場にとっても負担となるため、必要に応じて復職時期を延期したり、勤務形態を調整したりする判断がなされます。自分一人で結論を急がず、医療者同士の連携を信頼しながら進めていくことが重要です。
復職後の勤務形態とリハビリ勤務
復職後すぐに、休職前と同じフルタイム勤務や夜勤をこなすのは、大きな負担となります。そのため、多くの職場では「リハビリ勤務」「試験出勤」といった形で、段階的に勤務時間や業務量を増やしていく方法が取られます。例えば、最初の1か月は日勤のみ・時短勤務、その後徐々に勤務日数を増やし、最終的に夜勤を再開する、といったステップです。
リハビリ勤務の具体的な内容は、就業規則や職場の運用によって異なりますが、主治医や産業医の意見を踏まえつつ、看護部や上司と相談して決めていくのが一般的です。新人看護師の場合、業務に慣れる意味でも、「プリセプターや教育担当の先輩と一緒に行動する期間を設ける」「受け持ち患者数を減らす」などの配慮が行われることもあります。
リハビリ勤務期間中は、「前と同じようにできない自分」に落ち込むこともあるかもしれませんが、焦りは禁物です。復職直後は、勤務時間そのものだけでなく、通勤や人間関係、業務への緊張など、さまざまな要素がストレスとなります。少しずつ慣れていくプロセスだと捉え、「今日はここまでできた」と小さな達成を積み重ねることが、安定した復職につながります。
休職か退職か迷ったときの判断基準
看護師1年目で心身の不調に直面したとき、「休職して戻るべきか」「いったん退職して療養に専念すべきか」で迷う方は少なくありません。どちらを選ぶべきかは、症状の重さや回復の見込み、職場環境、経済状況、今後のキャリアプランなど、多くの要素に左右されます。
一概に「こうすべき」と言い切ることはできませんが、いくつかの判断基準を知っておくことで、自分なりの納得感を持って選択しやすくなります。ここでは、休職と退職それぞれのメリット・デメリットを整理しながら、どのようなケースでどちらが向いているかを解説します。
重要なのは、「今いる職場で頑張れない自分はダメだ」と考えないことです。同じ看護師という職業でも、病院の規模や診療科、働き方は多様であり、環境を変えることで力を発揮できる人もたくさんいます。休職も退職も、自分の健康と人生を守るための選択肢の一つと捉えましょう。
休職を選ぶメリット・デメリット
休職を選ぶ最大のメリットは、「職場との雇用関係を維持したまま療養できること」です。社会保険の加入も継続され、条件を満たせば傷病手当金を受給しながら治療に専念できます。また、回復後には、同じ職場に復帰し、1年目から積み上げてきた経験や人間関係を活かしながらキャリアを再開することが可能です。
一方で、休職にはデメリットもあります。ひとつは、「復帰を前提としているがゆえに、職場のことが頭から離れにくい」という心理的負担です。上司や同僚への申し訳なさや、復帰後の業務への不安が強く、休職中も心から休めない人もいます。また、職場環境そのものが自分に合っていない場合、休職によって体調が回復しても、復帰すると再び悪化してしまう可能性があります。
したがって、休職は「環境の問題よりも、一時的な心身の疲弊が主な原因」である場合や、「職場自体は嫌いではなく、できれば戻りたい」という思いがある場合に、特に有効な選択肢と言えます。逆に、「どうしてもその職場に戻るイメージが持てない」「価値観や働き方が根本的に合わない」と感じているなら、退職も含めて検討する必要があります。
退職を選ぶメリット・デメリット
退職を選ぶメリットは、「特定の職場から完全に離れ、自分のペースで療養や今後のキャリアを考え直せること」です。職場の人間関係や組織文化が合わず、それ自体が大きなストレス源になっていた場合、退職によって心理的な解放感が得られ、回復が早まることもあります。また、急性期病棟から慢性期や在宅、クリニックなど、別の領域に進むことで、自分に合った働き方を見つけやすくなる可能性もあります。
一方で、退職にはいくつかのリスクがあります。まず、雇用関係が途切れることで、傷病手当金の新規申請ができなくなり、収入の面で不安定になりやすい点が挙げられます。また、履歴書上は「短期間での退職」となり、次の転職活動に不利に働くのではないかと懸念する人も少なくありません。実際には、医療機関側も新人のメンタル不調の増加を理解しているため、誠実に経緯を説明できれば採用の障害にならないケースも多いですが、不安要素として残ることは否めません。
さらに、退職後すぐに就職活動を始められるほど体調が回復していない場合、「無収入のまま療養を続ける」期間が生じることになります。家族の支援や貯蓄など、経済面での備えが十分でない場合には、退職よりも先に休職を選び、社会保険制度を活用しながら回復を待つ方が現実的なケースも多いです。
将来のキャリアと心身の状態から考える
休職か退職かで迷ったときは、「将来どうなっていたいか」と「今の心身の状態で何が現実的か」という2つの軸で考えると整理しやすくなります。例えば、「将来も病院看護師としてキャリアを積みたい」「今の病院の教育体制や診療科は魅力的だ」と感じているなら、一時的な休職を選び、回復後に復職を目指す価値は高いと言えます。
一方で、「急性期病棟での勤務はどうしても合わない」「別の領域や働き方を模索したい」という思いが強い場合は、休職中に自分の適性や興味を見つめ直し、状態が安定してから転職を検討するのもひとつの方法です。その際も、いきなり退職を決めるのではなく、まずは休職して体調を整えつつ、情報収集やキャリア相談を行うことで、より冷静な判断がしやすくなります。
心身の状態があまりに悪化しており、「判断すること自体がつらい」「将来のことを考える余裕がない」という場合には、無理に答えを出そうとせず、主治医や家族、信頼できる先輩やカウンセラーに相談しながら、当面必要な選択(まずは休職の手続きをするなど)に絞って進めることも大切です。キャリアの方向性は、体調がある程度回復してから、少しずつ考え始めれば十分間に合います。
1年目で休職しても看護師として続けられるのか
多くの新人看護師が抱く不安のひとつに、「1年目で休職してしまったら、もう看護師としてはやっていけないのではないか」というものがあります。しかし、実際には、1年目や若手のうちに休職を経験し、その後に看護師として長く活躍している人は少なくありません。
重要なのは、「休職した」という事実そのものではなく、そこで何を学び、どう立て直したかです。自分のストレスサインを早く察知できるようになる、無理な働き方を見直す、環境や人間関係の選び方を学ぶなど、休職の経験がその後の職業人生を支える土台になるケースも多く見られます。
また、看護師の活躍の場は、病棟だけでなく、外来、訪問看護、介護施設、企業など多岐にわたります。自分に合ったフィールドを見つけることができれば、1年目のつまずきは決して「終わり」ではなく、「よりよいキャリアへの軌道修正」のきっかけとなり得ます。
休職歴は転職でどこまで不利になるか
休職歴が転職でどの程度影響するかは、多くの新人看護師が気にするポイントです。履歴書や職務経歴書に休職の事実をどこまで書くべきか、面接で聞かれたときにどう答えるべきか、不安を感じるのは自然なことです。
実務的には、短期間の休職であれば、履歴書上に詳細な記載を求められないこともありますが、同じ職場で数か月以上のブランクがある場合は、採用側も経緯を確認したいと考えることが多いです。このとき、ポイントとなるのは「正直であること」と「現在はどの程度回復しているかを具体的に説明できること」です。
例えば、「新人の頃、適応障害で3か月ほど休職しましたが、現在は主治医のもとで治療を終え、前職ではフルタイムで問題なく勤務できていました」などと説明できれば、多くの採用担当者は理解を示します。逆に、休職の事実を隠そうとしたり、質問に対して曖昧な回答をしたりすると、不信感を招く可能性があります。医療機関側も、近年のメンタルヘルス事情を踏まえ、休職歴があること自体を理由に一律に不採用とするような対応は減ってきています。
休職経験を今後に活かすためにできること
休職の経験を無駄にしないためには、「なぜ体調を崩したのか」「どのような環境や働き方なら自分は安定して働けるのか」を振り返ることが大切です。これは、自分を責めるための反省ではなく、自分の特性を理解するための作業です。
例えば、「急性期病棟のスピード感や重い責任が負担になっていた」「夜勤が続くと睡眠リズムが崩れやすい」「人間関係の板挟みになりやすい」といった気づきが得られれば、今後の職場選びや働き方の工夫に活かせます。また、ストレスが限界に近づいたときの自分のサイン(眠れない、食欲低下、人と会いたくないなど)を把握しておくことで、将来同じ状況になりかけたときに、早めに対処できるようになります。
さらに、休職期間中に心理療法やカウンセリングを受けた場合は、そこで学んだストレス対処法やコミュニケーションスキルを仕事に活かすこともできます。例えば、完璧主義的な思考を和らげる、上手に助けを求める、仕事とプライベートの境界を意識して休息時間を確保するなどです。これらは、看護師としてだけでなく、一人の社会人として長く働き続けるうえで役立つスキルとなります。
キャリアパスを見直すきっかけとしての休職
休職は、多くの場合、望んで選ぶものではありませんが、結果として「キャリアパスを見直す貴重な機会」となることがあります。看護師のキャリアには、病棟看護だけでなく、専門看護師や認定看護師、訪問看護、介護・福祉領域、産業看護、教育・研究、企業など、さまざまな道があります。
自分が何にやりがいを感じるのか、どのようなペースで働くのが心身に合っているのかを考えることで、将来の方向性が少しずつ見えてくることもあります。例えば、「患者さんとじっくり関わることが好きだ」と感じるなら、慢性期や在宅領域、「教育が向いている」と感じるなら、将来的に教育担当や看護学校教員を目指すなど、可能性は一つではありません。
1年目での休職はつらい経験かもしれませんが、それによって早い段階から自分の限界や価値観に向き合えたことは、長い目で見れば大きな財産にもなり得ます。焦って結論を出そうとせず、自分のペースで情報収集や学びを続けながら、「自分らしく看護師を続けられる道」を探していきましょう。
まとめ
看護師1年目で休職を考えることは、決して珍しいことではなく、弱さの証でもありません。むしろ、心身の限界を認識し、患者さんの安全と自分の人生を守るために必要な一歩と言えます。休職期間の長さは、勤務先の就業規則や症状の程度によって異なりますが、多くの医療機関では数か月から1年程度の病気休職制度を設けており、健康保険の傷病手当金などを活用しながら療養することが可能です。
メンタル不調であれ身体疾患であれ、無理を重ねて働き続けることは、かえって回復を遅らせ、看護師としての将来にも悪影響を及ぼします。大切なのは、「どのくらい休むべきか」を一人で抱え込まず、主治医や産業医、職場の担当者と相談しながら決めていくことです。
休職か退職かで迷うときは、自分の心身の状態と、将来どうありたいかを軸に、メリット・デメリットを整理してみてください。1年目で休職したからといって、看護師としての道が閉ざされるわけではありません。休職の経験を通じて、自分に合った働き方やキャリアパスを見つけ、再び歩み出している先輩方も数多くいます。
今つらさの中にいるとしても、適切な治療とサポートを受けながら、一歩ずつ前に進んでいけるよう、本記事の情報を参考にしていただければ幸いです。