看護師はインシデントで落ち込むと立ち直れない?心を立て直すためのヒント

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看護師

インシデントを起こしてしまい、強い罪悪感と自己嫌悪で頭が真っ白になっていませんか。二度と現場に立てないのではないか、看護師に向いていないのではないかと不安でいっぱいになっている方も多いと思います。
本記事では、看護師がインシデント後に落ち込んで立ち直れないと感じる心理と、その乗り越え方を、医療安全とメンタルケアの観点から丁寧に解説します。明日また一歩を踏み出すための、具体的な行動と心の整え方を一緒に整理していきましょう。

目次

看護師 インシデント 落ち込む 立ち直れないと感じるのはなぜか

インシデントを経験した看護師が、必要以上に落ち込み、立ち直れないほど自分を責めてしまう背景には、医療職特有の責任感や組織文化、教育のあり方が影響しています。単に性格の問題ではなく、構造的な要因が重なり合うことで、心が追い詰められやすい状況が生まれます。
まずは、自分がなぜここまで苦しいのかを客観的に理解することが、回復への第一歩です。自分の反応には理由があると分かるだけでも、少し気持ちが楽になる場合があります。

ここでは、看護師がインシデント後に強い落ち込みを感じる主な要因と、医療現場で言われるセカンドビクティムという概念を解説します。感情を無理に押さえ込むのではなく、専門的な視点で整理することで、自分を責めすぎない土台を作ることができます。

強い責任感と倫理観がプレッシャーになる

看護師は、患者の命と生活を守る専門職として、日頃から高い倫理観と責任感を求められています。国家資格を持ち、社会的な信頼も厚い一方で、「絶対にミスしてはいけない」「患者さんに危害を加えてはならない」というプレッシャーが常にのしかかっています。
そのため、インシデントが起きると、結果の大小に関わらず「自分は看護師失格だ」「命に関わることをしてしまった」と、自分の存在そのものを否定する考えに結びつきやすくなります。ミスを行動の問題としてではなく、人間性の問題として捉えてしまうことが、過度な落ち込みにつながります。

さらに、看護教育の中で「安全第一」「エラーは許されない」と強調される一方、エラーをした後の心のケアやリカバリー方法については、十分に教えられていないことも多いです。その結果、「ミスをした自分には価値がない」「ここに居てはいけない」という極端な自己評価になり、立ち直り方が分からないという状況に陥りがちです。

セカンドビクティムという考え方

医療安全の分野では、インシデントやアクシデントが起こったときに直接の被害を受ける患者や家族をファーストビクティムと呼びます。一方で、その出来事に深く関わり、強いストレスや罪悪感に苦しむ医療者をセカンドビクティムと捉える考え方が広がっています。
セカンドビクティムは、眠れない、食欲がない、仕事に行くのが怖いといった症状や、フラッシュバック、不安発作などに悩まされることがあります。これは甘えや根性不足ではなく、心理的ショック反応として十分に理解されるべき状態です。

この概念が示しているのは、「ミスをした医療者もまたケアされるべき存在である」という視点です。自分だけが弱いのではなく、構造的に誰にでも起こり得る反応であると知ることは、過度な自己否定を和らげます。まずは、自分もケアされる権利があるセカンドビクティムなのだと認識することが大切です。

組織文化や周囲の反応がダメージを増幅させる

インシデント後の落ち込みの深さは、出来事そのものだけでなく、職場の文化や上司・同僚からの言葉によって大きく左右されます。責任追及型の文化が強い職場では、「なんでこんなことをしたの」「注意不足だ」といった叱責が中心となり、当事者の心理的負担は何倍にも膨れ上がります。
逆に、システム要因や環境要因を一緒に振り返り、「どこを改善すれば再発を防げるか」をチームで検討してくれる職場では、当事者も前を向きやすくなります。同じインシデントでも、組織の関わり方によって、立ち直りやすさがまったく異なるということです。

また、同僚から「誰にでもあるよ」「大丈夫」と声をかけてもらえるだけで救われる人もいれば、何も触れられないまま時間だけが過ぎ、孤立感を深めてしまう人もいます。周囲の反応が二次的なダメージとなり、立ち直れないほどの傷として残ることがあるため、「自分だけが弱い」と決めつける必要はありません。

インシデントの種類と重大度を正しく理解する

インシデントを経験したとき、多くの看護師は出来事を必要以上に重大視し、「取り返しのつかないことをしてしまった」と感じがちです。しかし、医療安全では、インシデントのレベルや重大度を客観的に分類する指標が整備されており、それに基づいて評価することが重要とされています。
自分の関わった事例が、どの程度の影響レベルにあるのかを冷静に把握することで、感情的な自己否定と、事実に基づく振り返りを切り分けることができます。これはメンタルを守るうえでも、再発防止を考えるうえでも有効です。

ここでは、一般的なインシデントとアクシデントの違い、そしてよく用いられる重大度分類の考え方を解説します。感情に押し流されないための、事実を見つめる視点を確認しておきましょう。

インシデントとアクシデントの違い

医療安全の領域では、患者に実害が出たかどうかによって、インシデントとアクシデントを区別することが多いです。一般的には、患者に影響が出る前に発見された事例や、結果として影響が生じなかったヒヤリ・ハット事例をインシデントと呼び、患者に傷害や障害などの被害が実際に生じたものをアクシデントと位置づけます。
あなたが経験した出来事がインシデントであり、患者に実害が出ていないのであれば、それは「防げた可能性のあるリスクが見つかった」とも言えます。もちろん、ショックや不安を感じるのは自然ですが、同時に医療の質向上に役立つ重要な情報を提供したことにもなります。

インシデントをすべて「重大な事故」と同一視してしまうと、必要以上に自分を追い詰めることにつながります。自分の経験した出来事が、医療安全の定義上どの位置づけにあるのかを確認し、「事実」と「感情」を切り分けて理解する姿勢が大切です。

インシデントレベルと患者への影響

多くの医療機関では、インシデントやアクシデントをレベル0からレベル5などの段階で分類しています。例えば、患者に全く影響がなかった事例をレベル0〜1、観察が必要だったが後遺症は残らなかったものを中等度、永続的な障害や死亡に至ったものを高レベルといった形で区分します。
重要なのは、自分の関わった事例がどのレベルに当たるのかを、主観ではなく客観的な基準で確認することです。患者に影響がなかったレベルであれば、もちろん改善は必要ですが、「重大な事故を起こした」と自分を断定することは適切ではありません。

インシデントレポートを書く際には、患者への実際の影響と、潜在的に起こり得た最悪のケースを分けて考えると整理しやすくなります。そのうえで、最悪のシナリオが現実にならなかった要因も含めて振り返ることで、「守れた部分」と「改善すべき部分」の両方が見えてきます。

感情と事実を分けて評価する視点

インシデント後は、「自分が全部悪い」「あのときこうしていれば」といった思考が何度も頭の中で繰り返されます。これは自然な反応ですが、感情に支配されると、出来事の正確な分析が難しくなり、再発防止策も見えにくくなります。
そこで有効なのが、感情と事実を意識的に分けてノートなどに書き出す方法です。まずは時系列で「何が起きたのか」「誰が関わっていたのか」「どのような環境だったのか」といった客観的事実を整理します。そのうえで、「そのとき自分はどう感じたのか」「なぜそう感じたのか」を別枠で整理します。

このプロセスを通して、「事実としてのリスク」と「自分の受け止め方」が明確になり、「すべてが自分のせい」という認知の偏りを和らげることができます。自分一人で難しい場合は、信頼できる先輩や上司と一緒に振り返りを行うことで、よりバランスの取れた視点を持つことが可能です。

インシデント後に看護師が取りやすい心理反応

インシデントを経験した直後から数日〜数週間の間、看護師はさまざまな心理的・身体的反応を示します。これらは異常な反応ではなく、強いストレスに対する自然な反応として理解されています。しかし、本人にとっては「自分がおかしくなってしまったのではないか」と感じるほど苦しい場合もあります。
自分の状態を正しく把握し、それがよくある反応であると知ることは、自己否定を軽くし、必要なサポートにつながるきっかけになります。

ここでは、インシデント後に生じやすい罪悪感や不安、回避行動、過剰な完璧主義といった反応について、特徴と注意点を整理します。自分や同僚の反応を理解するための参考にしてください。

罪悪感と自己否定のスパイラル

インシデント後に最も強く表れやすい感情が罪悪感です。「患者さんを危険にさらした」「家族の信頼を裏切った」と感じ、何度もその場面を思い出しては胸が締め付けられるような思いに襲われます。
罪悪感自体は、専門職としての責任感の裏返しでもあり、改善や学びにつながる大切な感情です。しかし、それが「自分はダメな人間だ」「看護師を続ける資格がない」といった自己否定へと発展すると、心のエネルギーはどんどん消耗してしまいます。

このスパイラルから抜け出すには、「行為への反省」と「自分の存在価値」を切り分けて考えることが重要です。ミスをした行為自体は、事実として受け止め、改善策を考える必要がありますが、それと「人としての価値」や「看護師としてのキャリア」は本来イコールではありません。両者を混同してしまうと、必要な反省以上に自分を傷つけてしまうことになります。

不安や恐怖による回避行動

インシデント後、「また同じことを繰り返したらどうしよう」という不安から、関連する業務を極端に怖く感じてしまうことがあります。例えば、投薬インシデントを経験した看護師が、点滴や内服管理自体を過度に恐れ、必要以上に時間がかかったり、誰かに代わってもらおうとしたりするケースです。
一定期間の慎重さは安全の観点からも必要ですが、長期的な回避が続くと、自己効力感が低下し、「自分にはもうできない」という思い込みを強めてしまいます。また、必要以上に他者に依存することで、チーム内の負担の偏りを生む可能性もあります。

不安や恐怖が強いと感じる場合は、「一人で抱え込まない」「段階的に慣れていく」「手順やダブルチェック体制を強化する」といった工夫で、少しずつ自信を取り戻すことが大切です。必要であれば、師長や教育担当者と相談し、段階的な復帰プランを作成することも有効です。

過剰な完璧主義と燃え尽き

インシデントをきっかけに、「二度とミスをしてはいけない」と自分に厳しいルールを課し、極端な完璧主義に陥る人もいます。勤務前から強い緊張状態が続き、仕事中は常に神経を張り詰め、少しの不確実性も許容できなくなってしまう状態です。
短期的には安全性が高まるように見えるかもしれませんが、心身への負担は非常に大きく、睡眠障害や頭痛、消化器症状、抑うつ状態など、さまざまな不調につながるリスクがあります。最悪の場合、燃え尽き症候群となり、看護師という職業自体から離れざるを得ない状況に追い込まれる可能性もあります。

医療は本質的に不確実性を含む領域であり、どれだけ対策を講じてもリスクをゼロにはできません。「ベストを尽くすこと」と「完璧であること」は似て非なるものです。自分が一人で全てを背負おうとせず、チームで安全を守るという発想に切り替えることが、長く現場で働き続けるための鍵になります。

インシデントから立ち直るための具体的なステップ

インシデント後の強い落ち込みは、時間経過だけでは十分に癒えないこともあります。意識的に自分をケアし、周囲と協力しながら回復していくプロセスが必要です。ここでは、心と行動の両面から、立ち直るための具体的なステップを整理します。
これらはすべてを一度に行う必要はなく、自分のペースで取り組んで構いません。重要なのは、「何もできない自分」ではなく、「少しずつでも回復に向けて動けている自分」を認めていく姿勢です。

落ち込んだまま無理に頑張るのではなく、立ち止まりながらも前を向くための行動を一緒に見ていきましょう。

事実を整理し上司やチームと共有する

立ち直りの第一歩は、事実を整理して適切に共有することです。インシデントレポートは責任追及のためではなく、再発防止とシステム改善のための重要なツールです。自分の感情とは切り離し、時間帯、患者の状態、指示内容、環境要因などを具体的に記録します。
その際、独断で判断した部分、迷いながら進めた部分も含めて正直に書くことが大切です。上司や安全管理担当者との振り返りでは、「どの時点でリスクを察知できたか」「どのような支援や仕組みがあれば防げたか」といった観点で一緒に検討します。

事実を共有することは怖いかもしれませんが、チームでインシデントを扱うことで、「個人のミス」から「組織全体の学び」へと視点を広げることができます。このプロセスは、自分一人が悪いという認知を和らげ、必要以上の自己責任感から少しずつ解放されていく助けになります。

自分の感情を言語化し話せる相手を持つ

インシデント後の心のダメージを和らげるためには、事実だけでなく、自分の感情を安全な場で表現することが重要です。「怖かった」「申し訳ない」「もう辞めたい」など、頭の中で渦巻いている気持ちを言葉にしていくことは、それ自体が心の整理につながります。
おすすめは、信頼できる先輩や同僚、プリセプター、教育担当者など、現場の状況を理解している人に話を聞いてもらうことです。職場に話しづらい場合は、産業保健スタッフや、外部の相談窓口、カウンセリングサービスを利用するのも有効です。

話すことに抵抗がある場合は、まずはノートに自分の気持ちを書き出すだけでも構いません。「今一番不安なことは何か」「本当はどうしたかったのか」と自問しながら言語化していくと、自分の心の核となる部分が見えてきます。それを誰かに共有できたとき、孤立感は大きく減少します。

セルフケアと休息の重要性

強いストレスを受けた直後は、心だけでなく身体にも大きな負担がかかっています。睡眠時間の減少、食欲不振、頭痛や胃痛などの症状がある場合、それを無視して働き続けることは、状態の悪化や新たなエラーのリスクを高めます。
可能であれば、勤務調整や有給休暇の取得も選択肢に入れ、しっかりと休息をとることが大切です。その際、「休むことは迷惑だ」「責任放棄だ」と考える必要はありません。むしろ、心身を整えたうえで安全に働き続けるための、プロフェッショナルとしての判断とも言えます。

セルフケアとしては、十分な睡眠と栄養、軽い運動やストレッチ、入浴などの基本的な生活習慣を整えることが土台になります。呼吸法やマインドフルネスなど、緊張を和らげる技法を取り入れるのも効果的です。小さなケアでも積み重ねることで、回復力は確実に高まっていきます。

必要に応じて専門家の支援を受ける

数週間たっても強い不安や眠れなさ、仕事への著しい恐怖が続く場合や、日常生活にも支障が出ている場合は、専門家による支援を検討することが勧められます。医療者向けのメンタルヘルス支援や、カウンセリング、産業医面談など、利用できる資源は年々整備されてきています。
専門家に相談することは、「弱い自分の証拠」ではなく、「自分と患者の安全を守るための積極的な行動」です。早期の相談によって、うつ病や不安障害などへの移行を防ぎ、職場復帰やキャリア継続の可能性を高めることができます。

相談の場では、インシデントの詳細だけでなく、自分の背景やこれまでの負担、職場環境なども含めて話すことで、より適切な支援が受けられます。一度で解決しなくても構いません。必要に応じて継続的なサポートを得ながら、自分のペースで回復を目指していきましょう。

職場やチームでできるインシデント対応と支え合い

インシデントからの立ち直りは、個人の努力だけに委ねられるものではありません。職場やチームの文化、上司の姿勢、教育体制など、組織全体の取り組みが看護師の心の安全を大きく左右します。
ここでは、現場で実践しやすい支え合いの方法や、責任追及ではなく学びにつなげるインシデント対応のポイントを整理します。自分が当事者になったときだけでなく、同僚が苦しんでいるときにどう寄り添うかを考えるきっかけにもしてみてください。

一人ひとりの声が、職場文化を少しずつ変えていきます。安全で働き続けられる環境づくりは、患者の安全にも直結する大切なテーマです。

責任追及ではなく学びに変えるカンファレンス

インシデント発生後、多くの施設ではカンファレンスや振り返りの場が設けられます。このとき重要なのは、個人の不注意をなじる場にしないことです。質問や指摘が、「なぜこんなことをしたのか」だけに偏ると、当事者は防御的になり、真に重要な情報が共有されなくなってしまいます。
一方、「なぜこのエラーが起こり得る状況だったのか」「どのようなシステムや手順であれば防げたか」といった、構造的な要因に焦点を当てることで、組織としての学びが深まります。ヒューマンエラーは誰にでも起こり得るものとして捉え、個人を責めるのではなく、仕組みを改善する姿勢が求められます。

カンファレンスの冒頭で、「目的は責任追及ではなく再発防止と学びの共有である」ことを明確に伝えるだけでも、場の雰囲気は大きく変わります。当事者が安心して発言できる環境をつくることが、結果的に患者安全の向上にもつながります。

同僚への声かけとピアサポート

インシデントを起こした同僚は、多くの場合、自分自身を激しく責めています。そのため、周囲が何も声をかけないと、「みんな自分を責めているのではないか」「孤立してしまった」と感じ、苦しみが増してしまいます。
特別な言葉で励ます必要はありません。「大変だったね」「話したくなったらいつでも言ってね」といった、シンプルでも温かい言葉は、思っている以上に大きな支えになります。また、「自分も似た経験があるよ」「私もインシデントを起こしたことがある」と、自分の体験を共有することも、相手の孤立感を和らげる助けになります。

ピアサポートは、同じ立場で働く者同士だからこそできる支え合いです。組織的にピアサポート制度を導入している施設も増えていますが、日常のちょっとした声かけや気づかいも、立派なサポートです。自分が苦しいときにはサポートを求め、余裕があるときには誰かの支え手になる、その循環が職場のレジリエンスを高めていきます。

人員配置や業務量などシステム要因を見直す

多くのインシデントには、個人の注意力だけではどうにもできないシステム要因が関わっています。人員配置の不足、過重労働、経験の浅いスタッフが多い時間帯、複雑な指示が集中するタイミングなど、環境面のリスクが重なっていることが少なくありません。
インシデントをきっかけに、業務フローや人員配置、情報伝達の方法などを見直すことは、個人を責めない文化をつくるうえでも重要です。例えば、ダブルチェック体制の徹底、バーコード認証システムの活用、夜勤帯の人員増強、教育体制の強化など、現場からの声を反映した改善策が考えられます。

現場の看護師としてできることは限られていると感じるかもしれませんが、インシデントレポートや安全カンファレンスで、率直にシステム要因を提起することは、重要なアクションです。組織と現場が協力してリスクを減らしていくことで、同じように苦しむセカンドビクティムを減らすことにもつながります。

それでも看護師を続けるか迷うときの考え方

インシデントを経験すると、「もう看護師を続ける自信がない」「別の仕事を探した方がいいのでは」と悩む人も少なくありません。決して軽い決断ではなく、人生や生活にも大きな影響を与えるテーマです。
ここでは、看護師を続けるかどうか迷ったときの整理の仕方や、働き方の選択肢、キャリアの見直し方法について考えていきます。結論は人それぞれで構いませんが、感情だけで決めるのではなく、情報と時間を味方にしながら検討することが大切です。

一度立ち止まって、自分はどうありたいかを丁寧に見つめ直すことは、長い目で見れば大きな財産になります。

辞めるか続けるかを決める前に整理したいこと

「看護師を辞めたい」という気持ちが強いときは、多くの場合、心身が大きく疲弊しています。その状態で即座に大きな決断をすると、後になって後悔する可能性もあります。まずは、今の自分がどのような状態にあるのかを客観的に整理することが重要です。
例えば、「インシデントによるショックが主な原因なのか」「もともとの業務量や人間関係の負担が大きかったのか」「看護師という職業そのものに違和感があるのか」といった観点です。それぞれの要因によって、必要な対処や選択肢は異なります。

整理の際には、紙に書き出したり、信頼できる人と一緒に話し合ったりすることが役立ちます。「今すぐ辞めたい」のか、「環境を変えれば続けたい」のか、「一度休んでから考えたい」のか、自分の本音に少しずつ近づいていきましょう。

配置転換や働き方の変更という選択肢

インシデントを経験した部署で働き続けることがつらい場合、必ずしも看護師という職業自体を手放す必要はありません。同じ病院内での配置転換や、業務内容の変更、勤務形態の見直しなど、さまざまな選択肢があります。
例えば、急性期病棟から回復期や慢性期、訪問看護や外来など、リズムや求められるスキルが異なる部署への異動によって、自分に合ったペースで働けるようになるケースもあります。また、夜勤の有無や勤務時間、パート・非常勤への切り替えなど、ライフステージに合わせた働き方を選ぶことで、心身の負担を軽減できることもあります。

重要なのは、「フルタイムで急性期病棟に立ち続けることだけが立派な看護師ではない」という視点です。自分と患者双方の安全を守れる範囲で働き方を調整することは、プロフェッショナルとしての責任ある選択とも言えます。

キャリア相談やメンタル支援の活用

一人でキャリアを考えることに限界を感じる場合は、キャリア相談やメンタル支援の専門サービスを活用する方法もあります。病院内のキャリア支援窓口、看護協会や自治体が提供する相談窓口、民間のキャリアカウンセリングなど、看護職の経験を踏まえた支援が受けられる機会が増えています。
専門家との対話を通して、自分の価値観や強み、これまで培ってきたスキルを整理し、どのような環境であれば力を発揮しやすいかを検討することができます。また、インシデントによるトラウマ的な反応がある場合には、メンタル面のケアとキャリアの相談を並行して行うことが望ましい場合もあります。

看護師としてのキャリアは病棟勤務だけに限られません。教育、在宅、行政、企業、研究など、多様なフィールドが存在します。インシデントをきっかけに、自分のキャリアを広い視野で見直すことは、決して後ろ向きなことではなく、新たな可能性への入り口にもなります。

落ち込む自分を責めないための思考のヒント

インシデント後の辛さを長引かせてしまう大きな要因の一つが、自分自身への厳しすぎる評価です。「こうあるべき」という理想と現実のギャップに苦しみ、「できなかった自分」を責め続けてしまいます。
ここでは、心理学や認知行動療法の考え方も参考にしながら、自分を少しだけ優しく扱うための思考のヒントを紹介します。考え方の癖はすぐには変わりませんが、小さな視点の転換を積み重ねることで、心の負担は確実に軽くなっていきます。

完璧でなくても、揺れながらも、それでも看護を続けている自分を認めていくためのヒントとして、取り入れられそうなものから試してみてください。

べき思考から現実的思考へのシフト

看護師の多くは、「ミスをしてはいけない」「常に患者に最善を尽くすべき」といった強いべき思考を持っています。プロとしての責任感のあらわれですが、現実には人間である以上、限界やコンディションの波があり、すべてを理想通りにこなすことは不可能です。
べき思考が強くなると、一度のインシデントで「べきが守れなかった自分」への批判が激しくなり、「自分には資格がない」という極端な結論に飛びついてしまいます。そこで役立つのが、「〜でなければならない」を「〜であろうと努力するが、うまくいかないこともある」に言い換える練習です。

例えば、「絶対にミスしてはいけない」ではなく、「ミスを減らすためにできる限り注意を払う。万が一起きたら、チームで共有して学びに変える」と考えることで、自分に過剰なプレッシャーをかけすぎずに安全への意識を保つことができます。現実的思考は、責任感の放棄ではなく、持続可能な責任の持ち方です。

過去の自分と今の自分を比較しない

インシデント後、「前はもっとテキパキ動けたのに」「新人のころの方がミスが少なかった」と、過去の自分と現在の自分を比較して落ち込むことがあります。しかし、状況や責任の範囲が変化していることを無視した比較は、公平ではありません。
経験を重ねるほど、任される業務は高度かつ複雑になり、患者の状態も重症化していることが多いです。その中で起きたインシデントを、条件の違う過去と単純に比べることは適切ではありません。むしろ、これまで数え切れないほど安全にケアを提供してきた事実にも目を向けることが重要です。

自分を評価するときは、単一の出来事だけでなく、長い時間軸と広い視点で見直してみてください。今日まで看護師として働き続けてきたこと自体が、多くの努力と貢献の積み重ねであることを忘れないでください。

インシデントを「学びの資産」として位置づける

インシデントは、できれば経験したくない出来事です。しかし、一度起きてしまったものを、ただの失敗として終わらせるか、貴重な学びの資産として活かすかで、その意味合いは大きく変わります。
自分の経験から得た気づきや対策は、同じリスクに直面するかもしれない他のスタッフや、未来の患者の安全を守ることにつながります。例えば、自分が体験したインシデントを新人指導の場で共有したり、マニュアル改訂の議論に参加したりすることで、組織全体の安全文化向上に寄与することができます。

もちろん、傷が生々しいうちは、前向きに語ることが難しいかもしれません。時間をかけて心が少し落ち着いたとき、「あの経験があったからこそ、今の自分がある」と振り返ることができれば、インシデントは単なる痛みではなく、専門職としての深みを増す経験にもなり得ます。

まとめ

インシデントを経験し、落ち込み立ち直れないと感じている看護師は決して少なくありません。強い責任感や倫理観、職場の文化、教育のあり方など、さまざまな要因が重なり合い、心を追い詰めてしまうことがあります。しかし、その苦しみはあなただけの弱さの証拠ではなく、医療者として真剣に患者と向き合っているからこその反応でもあります。
まずは、インシデントの重大度や位置づけを客観的に理解し、感情と事実を分けて整理することから始めてみてください。そのうえで、上司やチームと事例を共有し、自分の感情を安心して話せる相手を見つけ、セルフケアと必要な休息を確保することが大切です。

職場全体としても、責任追及ではなく学びに変える文化づくり、ピアサポートの充実、システム要因の見直しが求められます。看護師を続けるか迷うときは、一人で抱え込まず、キャリア相談や専門家の支援も活用しながら、自分にとって納得できる道を探していきましょう。
インシデントは、決してあなたの全てを決める出来事ではありません。揺れながらも考え、学び、患者のそばにいようとする姿勢そのものが、プロフェッショナルとしての価値です。どうか自分を一度で見限らず、必要な支えを得ながら、あなたなりのペースで心を立て直していってください。

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