夜勤は限られた人数と時間の中で、急変対応から投薬、ナースコール、記録、申し送りまでを安全に回す高度なオペレーションです。優先順位の付け方が揺らぐと、疲労が増すだけでなく、患者安全にも直結します。本記事では、最新情報を踏まえ、ABCDEやSBARといった臨床フレーム、タスク設計、アラーム運用までを統合し、誰でも再現できる優先順位の作り方を体系的に解説します。
チェックリストや表を用い、今夜から実践できる具体策に落とし込みます。
目次
看護師 夜勤 優先順位の基本と判断フレーム
夜勤の優先順位付けは、生命に直結する事象から先に対応することを軸に、時間制約、依存関係、業務の再割当て可能性を重ねて決めるのが基本です。看護師個人の経験に頼るのではなく、ABCDE評価や早期警告スコア、SBARなど、共通言語となるフレームを用いることで、誰が担当しても同じ判断に近づけます。
さらに、優先度をA B Cに層別し、Aは即時、Bは時間内、Cは後回し可と分類して、全体の見える化を図ると、チームの合意が取りやすくなります。
優先順位は固定ではありません。状態変化、検査や内服の時刻、他職種の稼働状況によって、刻々と入れ替わります。したがって、最初に決めた計画を前提にしつつも、15〜30分単位でミニ再評価を行い、巡視やコール対応、投薬順の微調整を続ける運用が実践的です。再評価のたびに、A項目を必ず先頭に戻すルールを徹底し、致命的見落としを防ぎます。
| 優先度 | 判断基準 | 具体例 |
|---|---|---|
| A | 生命危機、安全上の緊急性が高い | 意識低下、SpO2低下、重度の疼痛増悪、急な出血、アラームの臨床的異常 |
| B | 時間内に実施しないと悪化・遅延リスク | 定時投薬、点滴更新、検査搬送準備、尿量評価 |
| C | 後回しにしても安全影響が小さい | 環境整備、物品補充、教育的説明の追補、記録の体裁調整 |
生命と安全を最優先にするABCDEとNEWSの使い方
優先順位の最上位は、気道、呼吸、循環、意識、全身露出のABCDE評価です。夜勤では人手が限られるため、まずAとBの異常有無を迅速に判断し、必要なら酸素管理や体位、救援要請を直ちに行います。次にCの循環不全や出血、Dの意識変容、Eの発疹・熱傷・褥瘡増悪を確認し、介入と同時に早期警告スコアで重症度を定量化します。
スコアは報告の客観化に役立ち、医師へSBARで伝える際の背骨になります。測定値が境界でも、トレンドの悪化があればAに格上げし、優先的に巡視・再評価を設定します。
時間制約と依存関係で並べ替えるタスク設計
安全次第でAを決めたら、BとCは時間制約と依存関係で順序を最適化します。例えば、抗菌薬の投与時刻が決まっている場合は、その前にルート確保や血糖測定が必要かを洗い出し、前工程を先に配置します。検査搬送がある患者は、前処置やサイン取得、排泄の調整を逆算して組み込みます。
さらに、同一病室でまとめられる作業はバッチ化し、動線を短縮します。依存関係を可視化することで、ムダな往復や待ち時間を削り、結果的にA項目へのリソースを確保できます。
夜勤前の準備と情報収集で決まる優先順位

夜勤の成否は、始業前の準備で大半が決まります。受け持ち患者の重症度、直近24時間の出来事、予定された検査や処置、指示の期限、ナースコールの傾向、家族対応の予定など、優先順位に影響する材料を素早く整理します。電子カルテのサマリ、警告薬の有無、隔離や感染対策の指定、アラームしきい値も確認し、初期計画を短時間で作ります。
また、担当間での申し送りで曖昧さが残る点は、その場で確認し、仮説のまま夜間に持ち込まない姿勢が重要です。リスクの不確実性を減らすこと自体が、優先順位の精度を高めます。
夜勤開始直後はコールが集中しやすく、巡視も重なります。だからこそ、事前にリスクマップとタイムラインを準備し、行動の初動を機械的に実行できるようにしておくと、判断負荷が下がります。特に高警告薬、転倒ハイリスク、人工呼吸器管理、輸血中など、優先度Aに直結する項目を一覧化し、最初の巡視ルートに反映しておくと、見落としが減ります。
- 重症度と急変リスクの高い患者を3名以内で特定
- 定時投薬と点滴更新の時刻を一覧化
- 検査・搬送・処置の前工程を逆算
- 高警告薬と二人照合が必要な項目をマーキング
- アラームしきい値と通知ルートの確認
受け持ち患者のリスクマップ作成
リスクマップは、患者ごとに急性増悪リスク、転倒・せん妄リスク、感染管理上の注意点、薬剤関連リスクを一枚で見える化するツールです。赤はA、黄はB、青はCなど色分けすると、巡視ルートや声かけ頻度を直感的に決められます。特に夜間はせん妄の発症や増悪が多く、排泄や睡眠の乱れが誘因となるため、予防介入も同時に書き込みます。
マップは静的でなく、最初の2時間で実態に合わせて更新します。変更があればハドルで共有し、担当外のスタッフも同じ優先順位で動ける状態を保ちます。
夜間タイムラインとチェックリスト
タイムラインは、時刻を縦軸に、患者や業務カテゴリを横軸に置いた簡易ガントチャートが便利です。コアとなるのは定時の投薬と点滴更新で、その前後に観察、ルート確認、口腔ケア、体位変換などを連結します。チェックリストは項目を短文化し、現場で即座にチェックできる形式にします。
想定外のコールや急変が入ったら、タイムラインを一部凍結し、Aに割り込みを許可する運用にします。復旧後は、未完了のB項目から再開するルールにすると、漏れが防げます。
急変・安全・投薬の優先度をどう配分するか

夜勤では、急変兆候の早期発見と投薬の正確性が最優先であり、両者の配分が鍵です。投薬は安全五原則の厳守と二人照合、バーコード認証などのシステムを駆使し、エラーの余地を最小化します。急変はABCDEに沿って迅速に評価し、必要なら応援コールと医師連絡を同時並行で行います。
この二軸が競合する場合は、生命危機が疑われる方をAにし、投薬は一時停止や代替スタッフへの再割当てを検討します。点滴の残量や薬効の時間幅を把握しておくと、どこまで後ろにずらせるかの判断が明確になります。
輸液や鎮静などは、わずかな遅延でもリスクがある場合があり、事前に猶予時間を把握することが重要です。一方、ビタミン剤や症状緩和薬などは一定の時間幅が許容できることが多く、Aの介入後に組み直せます。配分の設計には、薬理、感染対策、モニタリングの知識が不可欠です。
投薬・点滴・高警告薬の安全管理
投薬と点滴は、時間、薬剤、用量、投与経路、患者の一致を確認する安全五原則が基盤です。夜勤では思い込みや疲労がエラーの誘因となるため、二人照合やバーコード投薬を積極活用し、開封前に声に出して確認します。高警告薬は保管、準備、投与、記録の各段階にリスクがあり、準備の場を静穏化する、ダブルチェックを必須化するなど、環境面の工夫も効果的です。
点滴は残量と滴下速度、アラームの有無を巡視ルートに組み込み、詰まりや漏れ、ルート抜去の兆候を併せて確認します。異常があれば、臨床的影響を評価し、必要に応じて優先度をAに引き上げます。
急変兆候の早期察知とSBARでの報告基準
急変は静かな変化から始まることが多く、呼吸数増加、精神状態の変容、皮膚冷感、尿量低下などの微細なサインを見逃さないことが重要です。ベースラインからの変化量に注目し、数値と所見をセットで記録します。
報告はSBARで構造化し、状況、背景、評価、提案を一気通貫で伝えます。例えば、状況で現在の異常、背景で既往と経過、評価でABCDE所見とスコア、提案で指示確認と次手順を述べ、同時に応援要請や機材準備を依頼します。基準化された報告は診療の立ち上がりを早め、患者安全に直結します。
ナースコールと巡視を捌く実践的な優先順位付け
ナースコールは患者の安全ネットである一方、夜勤負荷の最大要因にもなります。優先順位付けの要は、コール内容のトリアージ、巡視頻度の層別化、動線最適化の三点です。コールを生命危機、症状悪化、ケア要望、環境調整に分類し、上位二分類は即対応、下位は巡視と統合するルールを決めます。
巡視はリスクに応じて頻度を変え、高リスク病室をルートの起点にし、同一病室で複数タスクをまとめて実施します。移動のムダを減らすことで、結果的にA対応の余力を確保できます。
アラームは誤警報が多いほど無視されやすくなるため、しきい値の適正化と通知先の整理が重要です。ベッドセンサーや輸液ポンプの感度設定を見直し、夜間に過剰な通知が出ないように整えます。臨床的に意味のあるアラームのみを残す工夫が、優先順位の明確化につながります。
コールのトリアージと巡視頻度の層別化
コール受信時は、まず要点を二問で確認します。危険が差し迫っているか、痛みや呼吸困難などの症状悪化があるか。いずれかに該当すればAに格上げし即対応、該当しなければBまたはCに分類し、巡視と統合します。
巡視頻度はリスク層別に応じて設定し、高リスクは短い間隔で再評価、中リスクは定時観察とセット、低リスクは環境調整を中心にします。層別は固定ではなく、コールの頻度や内容の変化でダイナミックに見直します。
アラームマネジメントと誤警報の扱い
アラーム疲れを防ぐには、臨床的に意味のあるアラームを残し、意味の乏しい通知を減らす設計が有効です。使用機器ごとに適正なしきい値を設定し、患者の状態に合わせて個別調整します。
誤警報は原因分析を行い、センサーの位置、配線のテンション、体動の影響などを修正します。頻発する誤警報は、夜勤開始時の点検リストに加え、根本対策を講じます。これにより、本当に対応が必要なアラームへの到達時間が短縮します。
記録と申し送りを効率化する優先順位と時短術

記録と申し送りは、夜勤の最後にまとめて行うほど漏れや記憶違いが生じやすくなります。優先順位の原則は、Aイベントは即時のミニ記録、BとCはバッチ記録です。重要イベントは時刻と介入内容、反応をタイムスタンプで残し、後から追補する余地を減らします。
申し送りはSBARで構造化し、夜間の変化点、未完了タスク、リスクと提案を明確にします。チェックリスト形式での読み上げや、ホワイトボードでの見える化を併用すると、引き継ぎの質が安定します。
テンプレートの活用は時短の切り札です。観察項目の標準文、よく使う処置の定型句、アセスメントの選択肢を準備し、例外だけを自由記述にします。これにより、入力時間が短縮され、思考は患者の評価と意思決定に集中できます。
記録のミニマム必要要件とテンプレ活用
記録の最小要件は、事実、評価、介入、反応の四点です。特に夜間は、要約と時刻を簡潔に残すだけでも、翌日のケアにつながる情報価値が高まります。過不足を避けるため、標準化されたテンプレートをベースに、異常や例外のみ追記します。
バイタルや疼痛スケール、入出量などの数値は自動連携が可能なら活用し、手入力を減らします。重要イベントは見出し語を統一し、検索しやすくすることで、後続の意思決定が迅速になります。
申し送りの構造化とハドルの活用
申し送りはSBARで短時間に正確性を高められます。状況で夜間の主な出来事、背景で関連する既往とリスク、評価で現在の状態とトレンド、提案で日勤に期待するフォローを提示します。
開始前や途中のミニハドルは、優先順位の再同期に有効です。急変対応後など、全員の認識がズレやすいタイミングで1〜2分の立ちミーティングを行い、A項目の再確認、B項目の担当入れ替え、C項目の先送り合意を取ります。
まとめ
夜勤の優先順位は、生命安全を頂点に、時間制約と依存関係、チーム体制を重ねて組み立てるのが基本です。ABCDEと早期警告、SBARという共通言語で判断を標準化し、Aは即時、Bは時間内、Cは先送り可として全体の見える化を徹底します。
タイムラインとチェックリストで事前準備を固め、ナースコールはトリアージ、巡視は層別化、アラームは適正化で捌きます。記録はAイベントの即時ミニ記録、申し送りはSBARで構造化。これらをチームで共有し、短いミニ再評価を繰り返すことで、夜勤の安全と効率は両立できます。今夜から一つずつ導入し、成果を可視化して定着させましょう。