看護師として真剣に働いているからこそ、ミスをした時のショックはとても大きいものです。落ち込んで涙が止まらない、眠れない、仕事に行きたくないと感じる方も少なくありません。
しかし、医療の現場でミスを経験したことがない看護師はほとんどいないと言われます。大切なのは、ミスそのものよりも「そこからどう立ち直り、次に生かすか」です。
この記事では、臨床現場に精通した視点から、看護師がミスで深く落ち込んだ時の具体的な立ち直り方と、再発防止につながる考え方や行動を、最新の知見を踏まえて分かりやすく解説します。
目次
看護師 ミス 落ち込む 立ち直り方を理解するための基本
看護師のミスは、投薬量の誤りや申し送りの漏れ、患者への説明不足など、どの現場にも起こり得るものです。真面目で責任感が強い人ほど、自分を強く責めてしまい、長く落ち込んでしまいやすい傾向があります。
ただし、医療安全の観点では、個人を責めるだけではなく、ミスが起こった背景やシステム上の課題を見直すことが重視されています。立ち直り方を考える際にも、「自分だけが悪い」と決めつけない視点がとても重要です。
この記事では、心のケアと実務的な再発防止の両面から、現場で実践しやすい方法を整理して紹介します。ミスをした後の感情の揺れは自然な反応であり、そのプロセスを理解することが回復への第一歩です。
また、今後のキャリアや成長にどうつなげるかという視点をもつことで、つらい経験を「意味のある学び」に変えることが可能になります。まずは、落ち込むメカニズムや、よくある反応から整理していきましょう。
なぜ看護師はミスで強く落ち込んでしまうのか
看護師は、患者の命や生活に直接関わる専門職です。そのため「自分のミスで患者さんに何かあったらどうしよう」という不安や恐怖が非常に強く働きます。倫理観が高いほど、少しのヒヤリ・ハットであっても「してはいけないことをしてしまった」と感じ、自責感が強まりやすいのです。
また、日本の医療現場では、今もなお「ミスをしてはいけない」「完璧であるべき」という暗黙のプレッシャーが残っている施設もあります。その雰囲気の中で叱責を受けると、「自分は向いていない」「看護師を続ける資格がない」といった極端な思考に陥ることも珍しくありません。
さらに、夜勤や長時間勤務、人員不足などによる慢性的な疲労やストレスが蓄積していると、心の余裕がなくなり、ミス後のショックを自分の中でうまく処理できなくなります。こうした背景を理解しておくと、「強く落ち込んでしまう自分」を責めすぎず、適切なサポートを求める大切さに気づきやすくなります。
落ち込みの段階と心の反応を知る
ミスをした直後から数日の間には、心の中でさまざまな反応が起こります。一般的には、
- ショックと否認
- 強い不安と自責感
- 怒りや他責感
- あきらめや無力感
といった感情が波のように押し寄せることがあります。これらは心が急激なストレスに対応しようとする自然なプロセスであり、「おかしくなってしまった」のではありません。
この段階で大切なのは、感情の揺れを「コントロールできない自分の弱さ」と捉えないことです。「今は不安の段階だな」「今は怒りが出てきているのかもしれない」と、少し客観的にラベリングするだけでも、感情に飲み込まれにくくなります。心の反応には時間が必要であり、焦って「早く立ち直らなければ」と自分を急かすと、かえって回復を遅らせてしまうことがあります。
ミスを成長につなげるための視点
ミスを経験した看護師の多くが、数年後には「当時はつらかったけれど、あの経験があったからこそ、今は安全への意識が高まった」と語ります。成長につながるかどうかの分かれ目は、ミスを単なる失敗で終わらせるか、学びの材料として丁寧に振り返るかにあります。
具体的には、「なぜ間違えたのか」「どの段階で気づけた可能性があるか」「今後同じ状況が起きた時、どう行動するか」といった問いを自分に投げかけることがポイントです。感情が落ち着いてきた段階で、上司や先輩に一緒に振り返りをしてもらうのも有効です。
また、ミスは個人と環境の両方の要因から生じます。「自分の注意力が足りなかった」と同時に、「ダブルチェック体制が不十分だった」「業務が過密で確認時間が取りにくかった」といったシステム面も合わせて検討することが重要です。自分一人を責めるのではなく、チームで改善案を出し合うことが、安全文化の向上と自分のメンタルの安定の両方につながります。
看護師がミスで落ち込んだ直後に取るべき行動

ミスに気づいた直後は、頭が真っ白になり、体が震えるような感覚に襲われることもあります。そのような時こそ、感情よりも「今すべきこと」を優先する必要があります。患者への影響評価と安全確保が最優先であり、同時に、上司やチームへの迅速な報告が重要です。
一方で、感情面を無視して働き続けると、後から強いフラッシュバックや不眠、体調不良につながることがあります。初動の段階で、事実確認と心のケアを両立させることが、結果として早い立ち直りにつながります。
ここでは、ミスに気づいてから数時間〜数日の間に意識したい具体的な行動を、順を追って解説します。状況に応じて優先順位は変わりますが、大まかな流れを理解しておくと、いざという時にパニックを最小限に抑えることができます。
まずは患者安全を最優先に確認する
ミスに気づいたら、真っ先に確認すべきは「患者さんへの影響」です。投薬間違いであれば、投与量や薬剤名、投与後の時間経過、バイタルサインや自覚症状の変化を迅速にチェックします。処置の手順ミスであれば、感染リスクや出血の有無など、必要な観察ポイントを整理します。
この段階では、罪悪感にとらわれすぎず、「今できる最善の対応は何か」という視点で動くことが重要です。自分一人で抱え込まず、すぐに近くの先輩や医師に相談し、指示を仰ぎながら評価を行います。
適切な初期対応を行うことで、患者への影響を最小限に抑えられるだけでなく、「あの時すぐに動けた」という事実が、後々の自責感を和らげる助けにもなります。ミスはゼロにはできませんが、ミスに気づいた後の対応で、その意味合いは大きく変わってきます。
上司・チームへの迅速な報告と相談
患者への初期対応と並行して、または直後に行うべきなのが、上司やリーダー、チームへの報告です。言い出しにくさや叱られる怖さから、報告を先延ばしにしたくなるかもしれませんが、時間が経つほどリスクが増し、自分の心理的負担も大きくなります。
報告の際は、感情的な言葉よりも、事実を落ち着いて整理して伝えるよう意識します。例えば、「何時何分にどの患者に、どの薬剤をどの量、どのルートで投与したのか」「本来の指示内容は何だったか」「気づいたきっかけは何か」といった具体的な情報です。
上司や先輩に早く共有することで、組織としての適切な対応が可能になります。また、自分一人では思いつかない視点からの助言やフォローを受けられるため、「一人で背負っている」という孤立感を減らすことにもつながります。チームでミスに向き合う文化があるかどうかは、あなた一人では変えられない部分もありますが、自分から誠実に報告する姿勢は、必ず評価される行動です。
事実と感情を分けてメモする
ミス直後は、頭の中で「どうしてあんなことを」「自分はダメだ」という思考がぐるぐる回り、事実の記憶が曖昧になりやすくなります。可能であれば、落ち着ける場所で、起こった事実と自分の感情を分けてメモすることをおすすめします。
事実の欄には、時系列で行った行為や確認した内容、指示内容、周囲の状況などを書き出します。感情の欄には、その時感じた不安や焦り、恐怖、恥ずかしさなど、頭に浮かぶまま素直に言葉にしていきます。
このプロセスにより、後の振り返りやインシデントレポートの作成がスムーズになるだけでなく、「事実」と「自分の解釈・感情」を切り分けて整理できるようになります。結果として、自分を過度に責めすぎることを防ぎ、より建設的な振り返りにつながります。
ミスから立ち直るためのメンタルケアの具体的な方法

ミスに対する初期対応が一段落しても、心の中では「申し訳なさ」「怖さ」「情けなさ」などが長く残ることがあります。仕事中は何とかこなせても、家に帰ると涙が出てきたり、眠れなくなったりすることも少なくありません。
こうした反応を放置すると、抑うつ症状やバーンアウト、出勤困難につながるリスクもあります。早い段階から、自分の心をケアする具体的な方法を知り、意識的に取り入れていくことが大切です。
ここでは、現場の看護師が実践しやすいメンタルケアの方法を、セルフケアと周囲からのサポートの両面から解説します。すべてを一度に行う必要はありませんが、自分に合いそうなものを少しずつ試してみてください。
自分を責めすぎないための考え方
責任感が強い看護師ほど、「自分のせいで」「自分がもっとしっかりしていれば」と、必要以上に自分を責める傾向があります。自責自体は向上心の表れでもありますが、行き過ぎると心を壊してしまいます。
自分を責めすぎないためには、「事実」と「評価」を分けて考えることがポイントです。例えば、「投薬を誤った」という事実は変えられませんが、「自分は看護師失格だ」という評価は、自分の中で作り出した解釈に過ぎません。この二つを混同すると、人格否定につながりやすくなります。
また、「ミスをした自分」と「これまで多くの患者を支えてきた自分」の両方を、バランスよく見つめ直すことも大切です。一つのミスだけで、自分の価値や看護師としての適性がすべて決まるわけではありません。過去に行ってきた良い看護や、患者から感謝された経験も、同じ一人のあなたの姿であることを、意識的に思い出してみてください。
睡眠・食事・休息など基本的なセルフケア
メンタルケアというと、特別なカウンセリングやトレーニングを思い浮かべるかもしれませんが、土台となるのは、睡眠・食事・休息といった基本的な生活習慣です。ミスの後は心身ともに大きなストレス状態にあるため、いつも以上に体のケアが重要になります。
まず、可能な範囲で睡眠時間を確保し、寝る前にスマートフォンを長時間見続けないよう意識します。寝つきが悪い場合は、ぬるめの入浴や軽いストレッチ、深呼吸法など、リラックスできる習慣を取り入れてみましょう。
食事は、一度にたくさん食べられなくても、消化の良いものを少しずつでも摂ることを心がけます。カフェインやアルコールに頼りすぎると、睡眠の質が落ち、不安感が増すことがあります。自分をいたわるつもりで、あえて温かい飲み物や、好きな軽食などを取り入れるのもよい方法です。
信頼できる人に気持ちを言葉にして伝える
つらい出来事を一人の頭の中だけで抱え込んでいると、ネガティブな思考が増幅しやすくなります。信頼できる同僚や先輩、プリセプター、あるいは職場外の友人や家族に、自分の気持ちを言葉にして伝えることは、大きな心の支えになります。
ただし、医療事故や個人情報に関わる内容をそのまま外部に話すことは避ける必要があります。具体的な患者情報を伏せたうえで、「仕事で大きなミスをしてしまって落ち込んでいる」「自分を責めてしまってつらい」といった感情面を中心に打ち明けると良いでしょう。
「そんなこともあるよ」「あなた一人の責任じゃないよ」といった言葉を受け取ることで、自分の認知の偏りに気づけることがあります。また、話を聞いてもらううちに、自分の中で状況を整理でき、少しずつ前向きな考えが出てくることも少なくありません。
必要に応じて専門家や職場の支援制度を利用する
ミスの後、長期間にわたって強い不安や抑うつ気分、不眠が続く場合は、専門家の支援を検討することも大切です。多くの医療機関では、産業保健スタッフやメンタルヘルス相談窓口、EAPと呼ばれる外部相談サービスなど、職員向けのサポート体制が整えられつつあります。
「たかがミスで相談するなんて大げさなのでは」と感じるかもしれませんが、早めに相談した方が、短期間で回復できるケースが多く報告されています。専門家は、医療者が抱えやすいストレスの特徴を理解しており、職場と連携しながら、業務調整や復職支援を含めたサポートを提案してくれます。
相談は匿名で行える場合もあり、守秘義務も徹底されています。自分一人で何とかしようと抱え込まず、利用可能な資源を上手に活用することも、プロとして自分を守る大切なスキルの一つといえます。
同じミスを繰り返さないための実務的な対策
心のケアと並行して、「同じミスを繰り返さないために何ができるか」を考えることは、自己効力感の回復にもつながります。再発防止策を具体的に講じることで、「何もしていない」という無力感から抜け出し、「自分は改善のために動いている」という感覚を持てるようになります。
ここでは、忙しい臨床現場でも実践しやすい、具体的な安全対策や業務改善のポイントを紹介します。
個人の注意だけに頼るのではなく、チームやシステムとしてエラーを起こりにくくする仕組みを整える発想が重要です。そのためには、自分のミスをオープンに共有し、学び合う文化づくりにも意識を向けていく必要があります。
インシデントレポートの本当の意味を理解する
インシデントレポートの提出は、「怒られるための報告書」ではなく、「同じような事例を組織全体で防ぐための情報共有」の役割を持ちます。提出する側にとっては心理的ハードルが高いかもしれませんが、レポートの蓄積により、リスクの傾向やシステムの弱点が見えてきます。
記載する際は、「誰が悪いか」ではなく、「どのような状況で何が起きたか」に焦点を当てます。例えば、「時間外で人員が少ない時間帯だった」「ダブルチェックを依頼しにくい雰囲気だった」「類似名の薬剤が並んで配置されていた」など、背景要因を丁寧に洗い出します。
このような情報は、部署単位や病院全体のカンファレンスで共有され、マニュアルの改訂や配置変更、教育内容の見直しといった具体的な対策につながります。自分のつらい経験が、他のスタッフや患者さんの安全向上に役立つと実感できると、ミス体験の受け止め方も少しずつ変化していきます。
ダブルチェック・指差し呼称など手順の徹底
ヒューマンエラー研究では、人間の注意力には限界があり、どんなにベテランでも一定の確率でミスを起こすことが知られています。そのため、個人の注意だけに頼らず、ダブルチェックや指差し呼称といった仕組みを徹底することが、エラー防止の基本となります。
例えば、投薬時には「患者名、薬剤名、用量、投与経路、投与時間」の五つを、指差しと声出しで確認する習慣をつけると、うっかりミスのリスクを大きく減らせます。また、忙しい時ほど、「このくらいなら一人で大丈夫」と思わず、同僚に一声かけてダブルチェックを依頼する勇気が大切です。
職場によっては、バーコード認証や電子カルテとの連携など、システム面での支援ツールが導入されている場合もあります。こうしたツールを正しく使いこなすことも、再発防止の重要な一歩です。自分自身の行動習慣と職場のルールの両方を意識しながら、ミスが起きにくい環境を整えていきましょう。
業務量や環境の見直しを上司と話し合う
ミスの背景には、個人の不注意だけでなく、過重労働や人員不足、経験年数に見合わない業務量など、環境要因が関わっていることが少なくありません。自分が限界を超えた状態で働いていると感じる場合は、その状況自体を見直すことが必要です。
上司と面談の機会を持ち、率直に「今の業務量や勤務形態で、注意力が落ちていると感じる」「このままだと安全に看護ができる自信がない」といった不安を伝えましょう。具体的に負担となっている業務や時間帯を整理しておくと、より建設的な話し合いがしやすくなります。
業務の一部を他のスタッフと再調整したり、教育体制を見直したりすることで、ミスのリスクを減らせるケースも多くあります。現場の声は、組織にとっても貴重な改善のヒントです。自分と患者さんの安全を守るための相談であることを忘れないでください。
ケース別 看護師のミスと落ち込みやすいポイント

一口に「ミス」といっても、その内容や影響の大きさ、本人の経験年数によって、感じるショックや落ち込み方は大きく異なります。同じ出来事でも、「新人にとっての大きな試練」と感じられる一方で、「ベテランにとっては再発防止を徹底したい事例」と受け止め方が違うこともあります。
ここでは、看護師がよく経験する代表的なミスの種類ごとに、落ち込みやすいポイントと、立ち直りにつながる視点を整理します。自分の経験に近いケースをイメージしながら読んでみてください。
なお、どのケースでも共通するのは、「一人で抱え込まないこと」と「事実と感情の整理を行うこと」です。そのうえで、それぞれの場面に応じた対処や学び方を考えていきましょう。
投薬ミスをしてしまった場合
投薬ミスは、看護師が最も恐れるミスの一つです。「量を間違えた」「患者を取り違えた」「投与時間を逸した」など、内容はさまざまですが、どれも患者の安全に直結するため、強い罪悪感を感じやすくなります。
投薬ミスを経験した看護師は、「もう注射が怖い」「投薬業務になると手が震える」といった症状を訴えることもあります。しかし、多くの病院では、投薬ミスを想定したマニュアルや、アレルギー歴の確認、バーコード照合などの安全対策が整えられています。これらを再確認し、活用方法を見直すことが、再発防止と不安の軽減につながります。
また、投薬ミスの背景には、「似た薬剤名の混在」「ラッシュ時の焦り」「ダブルチェックが形骸化していた」といったシステム要因が潜んでいることが多くあります。個人の技術だけでなく、部署全体で薬剤管理や手順の見直しを行うことで、「同じ状況なら誰にでも起こり得た」という現実に気づき、自責感を少し和らげることができるでしょう。
患者への声かけ不足・コミュニケーションエラー
忙しさのあまり、患者への説明や声かけが不十分になり、「突然処置をされて怖かった」「きちんと説明してほしかった」と不満やクレームにつながるケースもあります。医療事故ではなくても、「患者さんを不安にさせてしまった」と感じて大きく落ち込む看護師は多いものです。
この種のミスは、技術的な誤りというより、時間的・心理的余裕のなさが背景にあることが多くあります。まずは患者さんの気持ちに真摯に向き合い、必要に応じて改めて説明や謝罪の機会を持つことが大切です。それ自体が、関係修復と自己回復の一歩になります。
同時に、「一言添える」「目線を合わせる」「名前を呼んでから声をかける」など、小さなコミュニケーションの工夫が、患者の安心感に大きく影響することを改めて意識しましょう。自分なりの「声かけの型」を整理しておくと、忙しい中でも一定の質を保ちやすくなります。
新人・若手看護師が陥りやすい思考と対処法
新人や若手の時期は、知識も経験もまだ十分ではなく、どれが重大なミスで、どれがよくあるヒヤリ・ハットなのかの判断も難しい段階です。そのため、小さな失敗でも「取り返しのつかないことをした」と感じてしまいがちです。
また、「同期はできているのに自分だけできない」「先輩に迷惑をかけた」といった比較や罪悪感から、「自分は看護師に向いていないのでは」と早い段階で自己否定に陥るケースも見られます。しかし、多くの先輩看護師も、同じようなミスや挫折を経験しながら成長してきています。
新人のうちは、「ミスをゼロにする」よりも、「ミスに気づける力」と「ミスを報告し、学びに変える力」を身につけることが重要です。プリセプターや教育担当と定期的に振り返りの時間を持ち、自分の成長点と課題を一緒に整理してもらうことで、偏った自己評価を修正しやすくなります。
職場の人間関係とミスへの対応のされ方が与える影響
同じミスをしても、「すぐに立ち直れる人」と「長く引きずってしまう人」がいる背景には、個人の性格だけでなく、職場の人間関係やミスへの対応のされ方が大きく影響しています。
建設的にフィードバックし、チームで支え合う文化がある職場では、ミスを通じて学び合い、個々の成長につながりやすくなります。一方で、強い叱責や人格否定が日常的に行われている職場では、ミスが「成長のきっかけ」ではなく、「トラウマ」として心に残りやすくなります。
ここでは、上司や先輩との関わり方、同僚との支え合い、ハラスメントとの違いなど、職場環境がメンタルに与える影響について整理し、必要な対処法を解説します。
上司・先輩からの指導の受け止め方
ミスをした直後は、上司や先輩から厳しい言葉をかけられることもあります。その内容が、行動や手順の改善に焦点を当てたものなのか、人格や適性を否定するものなのかによって、受けるダメージは大きく異なります。
行動レベルの指導であれば、「次からは〇〇の手順を追加しよう」「この場面では、まず△△を確認してから動こう」といった具体的な改善策に目を向けることができます。一方で、「あなたはいつもダメだ」「向いていない」といった表現は、建設的な指導とは言えません。
指導を受ける際には、「自分の行動で改善できる点」と「指導の仕方そのもの」に分けて受け止めることが有効です。必要であれば、少し時間をおいてから、「先ほどのご指摘の中で、特にどの点を改善したらよいか教えていただけますか」と、具体的なアドバイスを求めることで、自分の中に残るモヤモヤを整理しやすくなります。
同僚との支え合いとピアサポートの活用
同じ現場で働く同僚は、業務内容や緊張感、責任の重さを共有している心強い存在です。ミスをした時に、「大丈夫?」「私も似たことがあったよ」と声をかけ合える関係があるかどうかは、立ち直りのスピードに大きく影響します。
近年、医療現場ではピアサポートと呼ばれる、同僚同士で支え合う仕組みづくりが注目されています。これは、事故やインシデントを経験した医療者に対して、訓練を受けた同僚が傾聴や情報提供を行い、心理的負担の軽減を図る取り組みです。
職場に正式なピアサポート制度がなくても、日常的に「お互い様」の精神で声をかけ合い、小さな相談や愚痴を共有できる関係性を育てることが大切です。自分自身も、他者のミスを責めすぎず、「自分もいつか同じ立場になるかもしれない」という視点を持つことで、自然と支え合える職場風土が育っていきます。
叱責とハラスメントの違いを知る
ミスに対する指導の中には、適切な範囲を超えて、ハラスメントに該当するケースも存在します。大声で怒鳴る、皆の前で繰り返し人格を否定する、何度も同じことを責め立てるといった行為は、指導・教育とは別の問題です。
叱責とハラスメントの大きな違いは、「相手の成長や患者安全の向上を目的としているか」「具体的な行動の改善を促す内容かどうか」です。これらの観点が欠け、相手を萎縮させたり、精神的に追い込んだりするような態度は、適切な指導とは言えません。
もし、自分が受けている言動に違和感や恐怖を感じる場合は、信頼できる別の上司や人事・産業保健スタッフ、労働組合などに相談することも検討してください。自分を守る行動は、決してわがままではありません。安全で健全な職場環境を整えることは、最終的に患者の安全にも直結する重要な取り組みです。
それでもつらい時の選択肢 転科・転職・休職を考える前に
ミスの経験や職場環境の影響が重なり、「どうしても仕事に行くのがつらい」「看護師を続ける自信がない」と感じることもあります。そのような時、「転科した方がよいのでは」「転職するしかないのでは」といった考えが頭をよぎるかもしれません。
確かに、部署や職場を変えることで、環境が大きく改善し、自分らしく働けるようになるケースも多くあります。一方で、感情が大きく揺れている時期に衝動的な決断をすると、後悔につながることもあります。
ここでは、転科・転職・休職といった大きな選択肢について考える前に、整理しておきたいポイントや、検討の進め方の目安を紹介します。自分のキャリアを守るためにも、落ち着いた視点で情報を整理していきましょう。
今の職場でできる調整や相談を洗い出す
まず検討したいのは、「今の職場の中で、調整できることはないか」という視点です。例えば、勤務形態の見直しや、夜勤回数の調整、教育担当の変更、部署内異動など、同じ組織内でも負担を軽減できる選択肢がある場合があります。
具体的には、以下のような項目を紙に書き出して整理することをおすすめします。
- 今、特につらさを感じている要因は何か
- 業務内容、人間関係、勤務時間など、どの要素が大きいか
- それぞれについて、「こうなれば続けられそう」と思う条件は何か
こうした整理をもとに、師長や人事担当との面談で、現実的に可能な調整策を一緒に検討していきます。
「辞めるか続けるか」の二択ではなく、「続けるために何ができるか」という中間の選択肢を増やすことが、冷静な判断につながります。結果として異動や転職を選ぶ場合でも、自分なりに納得したうえで次のステップに進みやすくなります。
キャリアカウンセリングや外部の相談窓口を利用する
自分や職場内だけでは、感情と現実的な選択肢をうまく整理できないこともあります。そのような時、看護職に特化したキャリアカウンセリングや、外部の相談窓口を利用することも有効です。
専門のカウンセラーや相談員は、あなたの話を丁寧に聞きながら、「本当は何に一番つらさを感じているのか」「どのような働き方なら続けられそうか」といった点を一緒に整理してくれます。また、医療業界の雇用状況や多様な働き方の情報に詳しい場合も多く、自分では気づけなかった選択肢に出会えることもあります。
相談することは、逃げでも弱さでもありません。むしろ、自分のキャリアと健康を守るための積極的な行動です。一度の相談で答えが出なくても、対話を重ねる中で、自分の中の優先順位や価値観が少しずつクリアになっていきます。
転職・休職を決断する際の注意点
転職や休職は、状況によってはとても有効な選択肢です。ただし、感情が高ぶった状態で急いで決めてしまうと、「別の職場でも同じような問題に直面した」「思っていた環境と違った」といったギャップが生じることもあります。
決断の前には、「今の職場でできることはやりきったか」「自分の心身の状態はどうか」「生活面の準備は整っているか」などを、できるだけ具体的に確認しておきましょう。また、転職先を選ぶ際には、給与や立地だけでなく、教育体制や安全文化、人間関係の雰囲気なども重視することが大切です。
休職を選ぶ場合は、主治医や産業医とも連携しながら、無理のない復職プランを検討します。「一度休んだら戻れないのでは」と不安になるかもしれませんが、適切なサポートのもとで休息とリハビリを行うことで、かえって長く安定して働けるようになるケースも多くあります。
まとめ
看護師としてミスを経験した時のショックや落ち込みは、決して小さなものではありません。特に真面目で責任感の強い方ほど、自分を過度に責めてしまい、「看護師失格だ」とまで感じてしまうことがあります。
しかし、医療現場でミスを一度も経験しない看護師はほとんどいないと言われます。大切なのは、ミスそのものではなく、「そこから何を学び、どう立ち直るか」というプロセスです。患者安全の確保と迅速な報告、事実と感情の整理、適切なメンタルケア、そして再発防止のための具体的な対策。この一つ一つのステップが、あなたの専門性と人間としての深みを育てていきます。
つらい経験の渦中にいる時は、「この気持ちは一生続くのでは」と感じるかもしれませんが、多くの先輩看護師が、時間と周囲の支え、そして自分自身の工夫によって、その壁を乗り越えてきました。どうか一人で抱え込まず、信頼できる人や制度に頼りながら、少しずつ心と環境を整えていってください。
ミスをしたあなたにも、患者さんに寄り添い続けてきた数多くの時間があります。その事実も含めて、自分の歩みを丁寧に振り返り、明日に向けて一歩を踏み出していきましょう。