忙しさや複雑な業務が当たり前の看護現場では、誰にでも抜けは起こり得ます。大切なのは個人のミスで片付けず、仕組みとスキルで予防することです。
本記事は、現場で頻発する抜けの種類、根本原因、再発防止の具体策を多角的に整理しました。
今日から取り入れられるチェックや伝達方法、IT活用、役割別の実践策までを網羅し、確実性と安全性を高めるヒントを解説します。
目次
看護師の現場で抜けが多いのはなぜか
看護の仕事は、短時間で多数のタスクを並行処理し、患者ごとに異なる優先度を判断し続ける高度な認知負荷がかかります。
この環境では注意資源が分散しやすく、与薬や記録、申し送りなどのプロセスで確認の抜けが生じやすくなります。
さらに、夜勤や突発対応、システムの操作差異など、状況要因が複雑に絡みます。個人の不注意ではなく、ヒューマンファクターと業務設計の両面から理解し、対策を組み合わせることが重要です。
何が抜けとカウントされるか
抜けとは、実施すべき手順や確認が意図せず省略・失念された状態を指します。
例として、与薬の5R確認不足、タイムアウトの未実施、観察項目の記録漏れ、検査依頼の未送信、申し送りの情報欠落などが代表的です。
インシデントやヒヤリハットの定義を院内で統一し、軽微な事象も報告・学習対象に含めることで、早期に傾向を掴みやすくなります。
現場環境とワークフローの複雑性
患者数の変動、呼び出し、家族対応、コンサル連絡などの割り込みは、タスクの中断と再開を繰り返させます。
中断後に元の位置へ戻る再開エラーは、確認の抜けを誘発しやすいことが知られています。
中断を前提にチェックポイントを可視化し、再開時の合図を標準化することで、抜けの発生率を下げられます。
起こりやすい抜けの種類とリスク

抜けは領域ごとに特性が異なり、対策も変わります。
与薬・処置は即時性の高いリスク、記録・申し送りは情報の非連続や誤判断を招くリスクが中心です。
観察・アセスメントの抜けは症状の見逃しにつながりやすく、後戻りが難しい場合もあります。
領域別に発生ポイントを把握して、確認の粒度を調整することが重要です。
与薬と処置の抜け
同一名・類似名薬や投与経路の取り違え、投与タイミングの遅延、指示変更の取り込み忘れが典型です。
5Rとダブルチェック、タイムアウトの徹底に加え、バーコード認証やリマインダーの併用で多重防護を構築します。
臨時指示は口頭のみで完結させず、閉ループで復唱し、記録へ即時反映することが不可欠です。
記録と申し送りの抜け
バイタルや入出量、疼痛スケール、観察所見の記載漏れ、優先度の強調不足が起きやすい領域です。
情報は事実・評価・計画を分け、SBARまたはISBARCで構造化して伝達します。
テンプレートや必須項目の活用で抜けを減らし、変更点と要注意点を先頭に掲示する運用が有効です。
原因分析: 個人・組織・システムの3層

抜けは単一原因ではなく、個人の認知特性、チームの文化や教育、機器や記録システムの設計が重なって生じます。
再発防止は責任追及ではなく、プロセスと環境を整える視点が不可欠です。
以下の表は、代表的な要因と具体例、介入の方向性を簡潔に整理したものです。
| 層 | 典型例 | 主な介入 |
|---|---|---|
| 個人 | 注意資源の枯渇、記憶頼り | チェックリスト、ポモドーロ、声出し確認 |
| 組織 | 中断多発、教育ばらつき | 中断対策、標準化、コーチング |
| システム | 画面遷移複雑、アラート過多 | UI最適化、フィルタ設定、バーコード化 |
個人要因とヒューマンファクター
睡眠不足、連続夜勤、ストレスは注意と判断を鈍らせます。
作業記憶に依存する運用は抜けの温床です。
カンペやチェックリストで認知の外部化を行い、声出しと指差し、タイムアウトで要所の確認を見える化します。
短時間の小休止と水分補給も、注意資源を回復させる実効性の高い介入です。
組織・システム要因と潜在エラー
中断が多い動線、アラートの鳴りすぎ、テンプレートの不一致は、注意の分散と見落としを招きます。
業務の標準化と役割分担、アラートの優先度設定、画面の並び替えなど、小さな設計変更で抜けは目に見えて減ります。
報告を歓迎する安全文化を醸成し、ヒヤリハットから学ぶサイクルを回しましょう。
すぐに実践できる再発防止と業務設計
高信頼な現場ほど、単純で反復可能な仕組みを重視します。
確認の粒度を共通化し、手順を短く、誰がやっても同じ結果になるよう設計します。
個人技に頼らず、チェックポイントの標識化とチームでの相互監視を取り入れることで、抜けは確実に減らせます。
標準化のコア: 5R・ダブルチェック・タイムアウト
与薬の5Rとダブルチェック、処置前のタイムアウトは、もっとも費用対効果が高い防壁です。
実施のコツは、声に出して確認し、第三者にも聞こえる形で記録に残すこと。
夜間や急変時ほどプロトコルを簡素化して守りやすくし、例外ルールを最小化します。
情報伝達の型: SBARと確認コール
SBARやISBARCを申し送りや電話報告に統一すると、重要情報の欠落が減ります。
復唱による閉ループコミュニケーション、要点の先出し、数字は一拍置いて区切って伝えるなど、音声伝達の工夫も有効です。
緊急時ほど型に頼ることで、伝達の質が安定します。
- チェックは目と口と指で行う
- 中断時は付箋やトークンで再開ポイントを固定
- 例外運用は記録してチームで翌日レビュー
IT活用と役割別の実践策

ITは抜け防止の強力な味方ですが、設定と運用が鍵です。
電子カルテのアラートは優先度で整理し、バーコード与薬やリストバンド認証で患者識別を自動化します。
音声入力やテンプレートで記録時間を短縮し、空いた時間を観察と振り返りに回す設計が効果的です。
役割に応じた実践策を組み合わせて定着を図りましょう。
テクノロジーの使いこなし
アラートは重要度を色や音で差別化し、不要通知は適切に抑制します。
定型文テンプレートに加え、可変項目を最小限にすることで記入漏れを防ぎます。
与薬はバーコード認証と電子サマリの併用で二重確認を自動化し、ログで振り返れる状態にしておくと学習が進みます。
新人・中堅・管理者の実践
新人はチェックリストと先輩のシャドーイングを組み合わせ、毎日のKPTで改善点を一つずつ定着させます。
中堅は中断対策や申し送りの標準化をリードし、ロールモデルとして型を示します。
管理者は人員配置と中断の見える化、教育の均てん化、インシデントの学習会を設計し、仕組みで支えます。
まとめ
抜けは個人の注意不足ではなく、複雑な現場条件と設計の不一致から生まれます。
与薬と伝達の標準化、チェックの見える化、ITの適正設定、役割別の実践を重ねることで、再発は着実に減らせます。
小さな改善をチームで積み重ね、抜けを起点に学ぶ文化を育てましょう。
今日から一つの型を決め、皆で守ることが最大の近道です。