夜勤は患者さんの安全を守りながら、限られた人員と時間で多くのタスクを完了させる高度なチームプレーです。回り方が整うと、急変の早期発見、転倒・せん妄の予防、投薬の安全性、そして自分の負担軽減に直結します。本記事では、現場で即使える回り方の基本と応用、時間管理、緊急時の優先順位、記録の時短術までを体系的に解説します。夜勤に不安がある方も、さらに精度を上げたいベテランの方も、明日から実践できるポイントをまとめました。
看護師 夜勤 回り方の全体像と基本戦略
夜勤の回り方は、病棟の特性や患者構成、スタッフ体制により異なりますが、共通する基本戦略があります。最重要は安全の確保であり、呼吸循環の把握、転倒・せん妄リスクの予防、ライン・ドレーンのチェック、投薬の正確性が柱です。定時の見回りは、4つのPと呼ばれる痛み・排泄・体位・身の回り品を意識し、必要時はEWSなどの早期警告スコアで悪化の兆候を見逃さないことが要点です。最新情報ですとして、電子化されたチェックリストや警告スコア連携の活用が広がっています。
回り方は固定ルートとアキュイティ優先のハイブリッドが実用的です。病棟の地理と患者の重症度を俯瞰し、初回は全室スクリーニング、以降は優先度に応じて頻度を調整します。投薬や検査採血などの時刻業務は、バッチ化して同線上にまとめると歩数と時間を削減できます。ペアやチームでの相互支援計画、夜間の省照明下でも見やすいタグや記録テンプレートの準備も効果的です。
優先順位の考え方とアセスメント軸
優先順位はABCDEの一次評価を軸に、気道・呼吸・循環・意識・全身暴露の順に危険を見極めます。EWSやNEWSなどのスコアを用いて、数値化された変化を基に客観的に優先度を判断します。発熱や低酸素、尿量低下、せん妄兆候など、夜間に顕在化しやすい変化を感度高く拾うことが重要です。ルーチンに流されず、違和感の根拠を小さくても積み重ねて評価します。
また、療養上の安全も優先度に組み込みます。転倒ハイリスクにはコール圏内配置と環境調整、鎮静薬投与中や認知症患者は巡回頻度を上げます。侵襲ラインは閉鎖系維持、固定の緩み、逆血確認、流量や残量、アラーム履歴をセットで確認します。優先順位は状況で変動するため、見回りのたびに再設定し、チームで共有します。
定時業務と臨時対応を両立させるコツ
定時業務は時間ブロックで束ね、動線を短縮します。投薬前はバーコードリストを準備し、投与の直前・直後に記録するワークフローで後書きを防止します。臨時対応が入った場合は、ブロック内の残タスクを可視化し、他メンバーに再配分するルールを事前に決めておくと回復が早いです。優先度の再評価とタスク再配置は夜勤効率の鍵です。
緊急コールと定時巡回が重なった場合は、緊急度のトリアージを迅速に行い、非緊急は折り返し時刻を伝えます。ペア体制なら、ひとりが急変対応、もうひとりが他室の安全確認を継続します。臨時対応後は、抜け漏れ防止のミニチェックを実施し、タスク管理表のタイムスタンプで追跡性を保ちます。
夜勤前の準備と情報収集で差が出る

夜勤は入る前の準備で半分が決まります。受け持ち患者の診療計画、直近24時間のイベント、禁忌やアレルギー、鎮静や鎮痛の調整、輸液や抗菌薬のスケジュール、安静度や離床計画、NPOや検査予定を一覧化します。せん妄リスク、転倒ハイリスク、隔離や感染対策の水準、家族連絡の要否も要確認です。これらを一枚のポケットサマリーに落とすと、見回りの判断が速くなります。
物品準備は、夜間に不足しやすいものを先手でセットします。採血や静脈留置、導尿や排泄ケア、創傷ケア、ライン管理に必要なセットをワゴンでプリセットし、補充ポイントを巡回ルート上に置くと戻り動線を短縮できます。端末や懐中ライトは予備電源も用意し、アラームの通知設定を自分の端末に最適化しておくと見逃しが減ります。
夜勤前カンファと申し送りで必ず確認する項目
申し送りでは、急変リスク、感染対策レベル、鎮静やせん妄対策、VTE予防、疼痛コントロールの現状、ライン類の目的と抜去計画、投薬変更、検査の有無、食止めや体位制限を確認します。バイタルトレンドと尿量、出血や発汗などの量的変化も重視します。医師へのコール基準や夜間指示の曖昧さはその場で明確化し、閾値と具体的アクションを言語化しておきます。
また、家族の希望や退院調整の状況、認知機能やコミュニケーション手段も夜間の対応を左右します。コールの頻度が高い方のストレス因子や環境調整のポイントも引き継ぎ、初回訪室で解決できる準備を整えます。口頭に頼らず、テンプレート化したチェックシートへ記入して共有すると漏れが減ります。
ポケットツールとワゴンの標準セット
ポケットには、アルコール綿、テープ、はさみ、マーカー、サージカルペン、手袋、ルーペ、ミニライト、スタチンガイドや希釈表の折り畳み、緊急時の内線早見表を。端末には投薬スキャン、EWS計算、せん妄スクリーニングのショートカットを配置します。ワゴンは上段に清潔物品、下段に汚物回収用の袋と色分け容器でゾーニングします。
採血や点滴更新セットは、針、留置針、輸液セット、三方活栓、栄養ライン用変換、滅菌ガーゼ、透明ドレッシングをバンドル化し、患者数プラス予備で準備します。ライン貼付ラベルと日付スタンプを同梱し、処置直後に貼付までを一連にすると、後戻りがなくなります。
- 申し送り直後に優先度マップを作成
- ポケットサマリーは患者ごとに色分け
- ワゴンは清潔・不潔のゾーンを固定
- 端末ショートカットで計算と記録を短縮
ルート設計と時間管理で効率化

回り方は、病棟の地理と重症度で設計します。初回は全室スクリーニングで安全確認とニーズ把握、その後は高リスクに短いインターバル、低リスクは定時巡回の中でまとめます。投薬、点滴更新、採血、体位変換、口腔ケア、排泄支援などのタスクは時間帯でブロック化し、同線上で完了させると歩数を削減できます。記録はその場で短文テンプレート入力し、サマリーはブロックの終盤に整えます。
固定ルートは見落としの防止に強く、アキュイティ優先はリスク低減に強いので、ハイブリッドが現実的です。病棟マップに矢印でルートを可視化し、コーナーごとにワゴンの補充ポイントを設定します。バディ体制では、片方が先行スクリーニング、もう片方が処置で追随する方法がスムーズです。
病棟の地理に合わせた回り方のパターン
コの字やロの字の病棟では、片側を時計回り、もう片側を反時計回りに設定し、合流ポイントでバディと進捗を合わせます。ナースステーションから最遠部を先に回り、戻りながら処置を集約すると効率的です。隔離室や観察室は巡回起点に置き、手指衛生とPPEの着脱動線を短くします。エレベータ導線が絡む場合は、上階・下階を時間帯でまとめて処理します。
高リスク患者の位置は、ルートの中間に配置すると頻回に再訪しやすくなります。転倒ハイリスクは看視距離と照度、コールスイッチの位置を初回で調整し、以降の巡回で微調整します。せん妄リスクが高い場合は、環境刺激のコントロールと睡眠保護を優先し、声がけと再定向をルーチンに組み込みます。
時間ブロッキングと記録のバッチ化
時間管理は、20〜30分のブロックを単位にタスクを束ねます。投薬ブロックでは、患者確認・投与・スキャン・即時記録までを一連に固定。体位変換ブロックではスキンチェックとドレーン位置、予防的パッド交換までセットにし、褥瘡予防のバンドルを徹底します。ブロック終端で3分の見直し時間を設け、抜けを修正します。
記録は、構造化テンプレートで主観を排し、数値と所見、介入、反応という順に記載します。端末の音声入力や定型文スニペットを活用すると、処置直後の短文化が可能です。後回し記録はエラーの温床のため、原則禁止とし、どうしても遅延した場合は遅延理由と時刻を明記して追跡性を保ちます。
| 回り方 | 強み | 弱み | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 固定ルート | 見落とし防止、習熟が早い | 高リスクへの反応が鈍くなる | 安定患者が多い病棟 |
| アキュイティ優先 | リスク低減、急変早期発見 | 漏れやすい、記録が散在 | 重症や術後が多い夜 |
| ハイブリッド | バランス良好 | 設計と共有が必要 | 多様な患者構成 |
- 初回20〜21時台に全室スクリーニングと環境調整
- 21〜22時に投薬ブロックと疼痛評価
- 23〜0時に体位変換とスキンチェック
- 0〜1時に採血や検体回収の準備と実施
- 2〜3時に高リスク再評価と処置
- 4〜5時に最終ラウンド、朝に向けた整えと記録集約
ミニ休憩の設計もパフォーマンスの一部です。30秒のマイクロ休息をブロック間に挟み、水分補給と深呼吸で集中力を保ちます。カフェインは後半の睡眠負債を考慮し、摂取時刻を計画しましょう。
緊急対応とリスク管理の優先順位
夜間は人員が限られ、ナースコールやアラームが重なる場面が多くなります。緊急度の高い対応を先行しつつ、非緊急の遅延を適切に伝え、安心感を損なわないコミュニケーションが重要です。トリアージは一次評価を厳密に適用し、低酸素や胸痛、意識変容、出血など生命に関わる徴候を最優先にします。同時に、転倒・せん妄・抜去・誤嚥といった療養上の重大リスクを予防します。
せん妄は夜間に増悪しやすく、照度や騒音、睡眠障害、脱水、痛み、薬剤など多因子が関与します。予防的介入として、日中の覚醒リズムの支援、夜間の環境調整、鎮静の見直し、メガネや補聴器の活用、再定向の声がけが有効です。転倒はベッド低床化、足元の整理、必要最小限の点滴で可動性を保つ工夫が鍵です。
ナースコールが重なった時のトリアージ
複数コール時は、アセスメントが必要な高リスクサインを抽出します。息苦しい、胸が痛い、ぐったり、意識がおかしい、出血、激痛、呼吸器アラームは最優先。次に排泄や体位、物品依頼などを優先度中、環境調整は低とし、折り返し予定時刻を明確に伝えます。可能ならアシスタントへ中低優先を委譲し、最優先へ集中します。
対応後は、未対応リストを短時間で見直し、抜け漏れを回避します。トリアージの判断基準はチームで統一し、夜勤前のブリーフィングで確認しておくと現場での迷いが減ります。端末のコール履歴と対応ログを活用し、応答の偏りを見える化すると改善が進みます。
夜間せん妄・転倒・急変の早期発見
せん妄は入眠困難、落ち着きのなさ、見当識低下、夜間の歩行企図などがサインです。初回でリスク評価し、巡回頻度を上げ、ベッド周りの刺激を減らします。転倒は離床センサーと声かけ、トイレ誘導の定時化、履物の確認、鎮静や利尿薬の投与時刻の調整が予防に有効です。急変はEWSトレンドの上昇、呼吸数増加、皮膚冷汗、尿量の変化など小さな兆候の組み合わせに注目します。
重症化を防ぐには、早期の医師連絡と、酸素投与や体位調整、輸液調整などの初期介入を迅速に行います。標準化された急変時プロトコルと、役割分担表をステーションに掲示し、夜勤開始時に再確認しておくと対応力が高まります。
記録・申し送りと多職種連携

夜勤の記録は、安全と法的リスク管理の基盤です。リアルタイム記録を原則に、構造化テンプレートで入力負荷を下げ、抜けを防止します。事実、所見、介入、反応、計画の順に簡潔に記載し、数値と時刻を明確にします。バーコード投薬管理、アラーム履歴、EWSの自動取り込みを活用すると、客観データの正確性が高まります。申し送りはSBARで要点を絞り、朝の混雑前に準備を整えます。
連携は夜間でも止まりません。急変予兆や介入内容は、医師、薬剤師、リハ、栄養、地域連携へ適時共有します。特に薬剤調整や疼痛、鎮静の課題は、翌日の計画へ確実に反映させます。連携メモは一元管理し、口頭のみの伝達を避けます。
電子カルテでの時短記録と安全性
定型文とスニペットを準備し、投薬、処置、体位変換、疼痛評価、せん妄スクリーニングの文をワンタップで呼び出せるようにします。音声入力は短いフレーズで誤変換を減らし、数値は手入力で確認します。アラートや自動計算は過信せず、異常値は再測定と二重確認を徹底します。遅延記録は例外とし、時刻と理由を明記します。
記録の品質は監査可能性で判断します。誰が、いつ、何をして、どう変わったのかが追跡可能であることが重要です。改ざん防止のため、訂正は訂正機能で行い、削除や上書きを避けます。端末のセキュリティは自動ロックとパスコード、画面の覗き見防止を設定します。
朝に向けた申し送りの構造化とチーム連携
申し送りはSBARで構造化します。状況、背景、評価、提案の順で簡潔に。夜間の変化、対応内容、継続課題、コール基準、家族連絡や説明の要否を明確にします。処置や採血の持ち越しは理由とリスクを付記し、朝のタスク衝突を回避します。チェックリストを用いて、感染対策レベル、ライン目的、抜去計画の再確認を行います。
チーム連携では、アシスタントと看護師の役割を明確化し、申し送り前にタスク完了状況を照合します。医師への申し送りは、数値とトレンド、患者の希望を添えると意思決定が迅速になります。重要事項はボードと電子メモで二重化し、伝達漏れを最小化します。
チェックリスト例
- EWSトレンドの確認と閾値
- 投薬変更と副作用の観察結果
- ライン・ドレーンの目的と抜去計画
- 転倒・せん妄リスクと対策の継続
- 家族連絡事項と同意状況
まとめ
夜勤の回り方は、安全を最優先に、優先順位、ルート設計、時間ブロック、記録、連携を一体でデザインすることが本質です。初回で全体像をつかみ、以降は高リスクへ頻回、低リスクは定時内に集約するハイブリッド運用が現実的です。タスクはバンドル化し、同線で片づけ、記録は即時かつ構造化で漏れを防ぎます。緊急時はトリアージ基準をチームで共有し、対応後の抜け確認までを一連にします。
準備が整えば、夜勤は安定し、急変の早期発見率も上がります。施設の手順と標準策に沿いながら、本記事のポイントをチームで小さく試し、改善サイクルを回してください。回り方は技術であり、継続の工夫で必ず洗練されます。明日の夜勤から、ひとつでも取り入れてみましょう。