ナースコール、処置、記録、申し送り。限られた時間で安全と質を両立するには、偶然の頑張りではなく、仕組みで動くことが不可欠です。
本記事では、現場で即使えるタイムマネジメント、動線と環境整備、電子カルテの使い方、チーム連携までを体系的に解説します。最新情報です。
今日から病棟のムダが目に見え、明日の自分の余裕が増える実践的なコツを厳選してお届けします。
目次
看護師が効率よく動くための全体戦略
看護師が効率よく動くためには、時間短縮テクニックの点ではなく、業務設計という面で捉えることが重要です。安全を守る中核業務を優先し、転記や移動など付帯作業を減らすことで、手間の総量を下げます。
まずは自部署の到達目標と計測できる指標を決め、ボトルネックを見える化します。ムリ・ムダ・ムラを継続的に減らし、チームで同じ原則に基づき動くと、再現性のある効率化が可能になります。
戦略はシンプルで構いません。例えば、先取りでまとめて行う業務、患者の安全に直結する業務、後回しにできる業務に仕分けるだけでも効果が出ます。
合わせて、作業の標準化とチェックリスト化、ICTの活用、物品の定位置管理の三本柱を整えましょう。どれも小さな投資で継続的な時短につながります。
目的とKPIを明確にする
最初に、効率化で何を達成したいかを明確化します。例えば、申し送りの超過時間を半減、カルテ記録の遅延ゼロ、歩数の削減、残業時間の圧縮など、現場で測れるKPIを設定します。
KPIは週次で確認し、達成状況をスタッフ間で共有します。数字が見えると改善の焦点が合い、モチベーションの維持にも役立ちます。
達成に向けた施策は、影響度と実行容易性で優先順位を付けます。小さく始めて効果検証し、良いものだけを標準に組み込むことが肝心です。
変更は一度に多くをやらず、現場の負荷を最小にして段階的に進めると定着しやすくなります。
ボトルネックの見える化と改善サイクル
混雑や待ちの発生源を特定するには、1日だけで良いので動線と所要時間を時系列で記録してみます。記録・移動・検索・待機に時間が偏っている場合が多く、ここが改善の起点です。
可視化できたら、原因を機器、配置、ルール、スキルの観点で整理し、対策を一つずつ当てはめます。
改善はPDCAをコンパクトに回します。1〜2週間で試験導入し、現場の声を拾い微修正する運用が効果的です。
変化の負荷を下げるために、運用手順はA4一枚の簡潔な標準にまとめ、誰でも同じやり方でできる状態をつくります。
タイムマネジメントと優先順位づけ

時間内に終えるための王道は、業務の仕分けと時間のブロック化です。患者安全に直結するタスクは先行処理、付帯作業はまとめ取り、緊急枠は常に10〜15%確保します。
また、忙しい時間帯の前に前倒しで準備を済ませる先手の設計が、後追いの連鎖を断ち切ります。
申し送り前後など切り替えポイントで、次の90分にやることを3つだけ紙に書き出すと、注意の分散を防げます。
加えて、記録はベッドサイドで一次入力、移動の合間に短時間で追記とパッケージ化しておくと、終業前の記録残りが激減します。
トリアージ思考で業務を仕分ける
臨床で用いるトリアージの発想を業務にも適用します。生命に直結する行為、予防的に先手を打つ行為、後回し可能な行為に分け、色付けや記号でスケジュールに反映します。
この仕分けをチームで共有することで、忙しい時間帯に支援に入る優先順位も揃います。
仕分けの具体例として、直前準備が必要な処置は早めに物品をカートにまとめ、記録や連絡は時間をブロックして一括で処理します。
こうした型を作ると、急変や割り込みが発生しても、全体のペースを崩さずに吸収できます。
タイムブロッキングとバッファの設計
1日の中で、ラウンド、処置、記録、連絡の時間帯を固定化し、割り込みを許容するバッファを常に確保します。
特にピーク前の30分に先取りの時間を置くと、後半の余裕が顕著に増加します。時間帯ごとの狙いを明確にすると、切り替えもスムーズです。
先取りと後追いの違いを意識しましょう。短時間の先取りが、長時間の後追いを防ぎます。
以下の比較を参考に、先取りに寄せる設計に変えていきましょう。
| 項目 | 先取り | 後追い |
|---|---|---|
| 準備物品 | 一括で前倒し準備 | 個々の処置直前に探す |
| 記録 | ベッドサイド一次入力 | 終業前にまとめ入力 |
| ナースコール | パターン把握で予防訪室 | 呼ばれてから都度対応 |
動線設計と環境整備でムダを削る

病棟の歩数が多いほど時間は失われます。物品の定位置管理、サテライト配置、カートの標準化で動線を短くし、探す時間をゼロに近づけます。
まずは頻度と緊急度の高い物品から定位置を決め、誰が見ても分かるラベルと色分けで統一します。配置が固定されるだけで、体感の忙しさが大きく変わります。
補充は人ではなくルールで回します。補充ラインを決め、使い切る前に次が自動的に用意される仕組みを作ると、切らせない安心感が段取りの良さに直結します。
動線は季節や入院傾向で変化するため、定期的な見直しも重要です。
5Sと定位置管理の実践
整理、整頓、清掃、清潔、しつけの5Sは医療現場でも有効です。最初に要らない物を排除し、次に必要品を用途別にゾーニングします。
トレイや引き出しにはラベル、色、数量表示をセットで付けると、補充と確認が一目で完了します。
日々の維持は、当番制よりも小さな仕組みに任せます。使用後は戻す、出庫簿はバーコードで簡素化、カートは終了時にリセットというルールを徹底。
チェックリストを一枚貼り、誰でも同じ状態を再現できるようにします。
補充ルールとサテライト配置
補充の遅れは現場のストレス源です。最小在庫量と補充点を決め、朝と夕のタイミングで巡回補充する運用にします。
高頻度物品は廊下のサテライト棚やカートにまとめ、病室との往復回数を減らします。
サテライトは歩行導線の交差を避け、動線の中心に配置します。使い切りパックを導入すれば、数える手間や衛生面の不安も軽減します。
これらは小さな変更ですが、日々の合計時間を確実に短縮します。
電子カルテとICTの賢い使い方
電子カルテは使い方次第で業務時間が大きく変わります。テンプレート、スニペット、ショートカットを整え、ベッドサイド入力とバーコード認証を組み合わせると、転記ミスと二重入力が激減します。
端末とネットワークの配置も含め、現場の動きに合う設計が効果を最大化します。
短文定型句の共通化、観察項目のチェックボックス化、音声入力の併用など、小さな工夫の積み重ねが数十分の時短を生みます。
端末の起動やログインを速くするだけでも、体感時間は大幅に改善します。
テンプレートとスニペットで入力を最小化
頻出する看護記録や教育、退院指導の記載はテンプレート化し、可変部分だけ埋める運用にします。よく使う文言はスニペットとして登録し、数文字のトリガーで呼び出せると入力が高速化します。
観察項目は選択式を基本に、自由記載は要点のみに絞ると精度が上がります。
テンプレートは定期的に更新し、現場の言葉で簡潔に保ちます。重複表現や冗長な定型は削ぎ落とし、後から読んで分かる最小限の情報構造にします。
これにより、読み手の理解も早くなり、確認時間も短縮されます。
バーコードとモバイルで転記ゼロへ
投薬や検体採取にバーコード認証を用いると、患者誤認と転記ミスを同時に防げます。ベッドサイドでスキャンし、その場で記録まで完結させる流れを標準化しましょう。
モバイル端末を活用すれば、移動の合間に入力と確認が行え、作業の分散が可能になります。
端末はカートに固定し、充電と消毒の手順を標準化します。接続の不調は最優先で対処し、遅延を放置しないことが肝心です。
ショートカットキーやクイックアクセスの共通設定も、チーム全体の生産性を底上げします。
チーム連携とコミュニケーションの標準化

同じ情報を短時間で正確に共有するには、伝える型を揃えるのが近道です。SBARなどの枠組みで要点を圧縮し、申し送りは目的と確認事項を明確にします。
さらに、短時間のミニカンファレンスと役割の明確化で、タスクの重複や漏れを防止します。
連絡手段は一元化し、緊急度に応じたルールを決めます。重要な判断は書面または電子で記録を残し、誰が見ても同じ結論に至るよう根拠を添えます。
この標準化が、スピードと安全の両立につながります。
SBARで一言要約を徹底する
状況、背景、評価、提案の順で要点を述べるSBARは、短時間で正確な伝達に有効です。最初に主訴と緊急度を一言で述べると、相手の聴取姿勢が整います。
背景は必要最小限、評価は観察事実を中心に、提案は次の一歩を明確にします。
申し送りや電話連絡のテンプレートをA6サイズにまとめ、カード化してポケットに携帯します。
練習を重ねると、自然に要点から話せるようになり、連絡の往復が減って時間が生まれます。
ミニカンファと委譲で重複をなくす
朝夕に5分のミニカンファレンスを設け、優先患者、注意点、支援が必要な場面を共有します。
その場でタスクを委譲し、実施者と期限を明確にしておくと、重複対応や取りこぼしが減ります。
委譲はスキルに応じて段階的に行い、見守りから単独実施へと移行します。
チェックバックで理解を確認し、実施後は簡単な振り返りを行うことで学習が定着し、次の効率化につながります。
現場で使えるミニチェックリスト
- 申し送りはSBARの順で90秒要約
- 高頻度物品はサテライトに集約し、色とラベルで表示
- 記録はベッドサイド一次入力+スニペット活用
- 先取り30分のタイムブロックとバッファ10%確保
- 補充点と補充当番ではなく、補充ルールで回す
まとめ
効率化の核心は、個人の努力ではなく、仕組みの設計にあります。業務を仕分け、時間をブロックし、動線を短縮し、電子カルテを味方にする。
そして、チーム全体で同じ型を使い、短い対話で正確に動く。この積み重ねが、安全と余裕の両立を実現します。
今日からできる一歩として、先取り30分の設定、SBARカードの携帯、物品の定位置ラベル化、記録テンプレートの整備を始めてください。
小さな改善でも、1日数分、1週間で数十分、1年で数十時間の余白になります。患者に向き合う時間を増やすために、仕組み化を現場の標準にしていきましょう。