夜勤は少人数で多重課題に対応しながら、限られた時間で的確に判断することが求められます。鍵になるのが情報収集の質とスピードです。どのデータを、いつ、どこから集めるのか。どう整理し、チームに共有するのか。本記事では、臨床で使える実践的な手順と、電子カルテやデジタルツールを活かすコツ、申し送りの型、セキュリティ配慮までを体系的に解説します。
最新情報です。今夜から使えるチェックリストも用意しました。
看護師 夜勤 情報収集の全体像と基本フロー
夜勤の情報収集は、出勤前の準備、交代時の申し送り、巡回中の観察と記録、急変時のエスカレーション、終業前の引き継ぎという流れで一貫性を持たせると精度が上がります。ポイントは、個別のデータをばらばらに追うのではなく、患者ごとの経時変化とリスクを軸に全体像で捉えることです。
患者一覧、危険度、直近の治療方針、アラート履歴をひと目で把握できる仕組みを先に整えると、判断の質が安定します。
また、夜間は鎮静、せん妄、呼吸状態、疼痛、転倒転落、ラインやドレーンなど日中より観察の盲点が増えます。だからこそ、標準化したチェック項目と、SBARのような伝達様式で情報を圧縮して扱うことが重要です。重要度の高い患者から優先して確認する優先順位付けのルール化が、ミス防止と時間短縮に直結します。
夜勤開始前の準備フロー
出勤直後の10分をどう使うかで一晩の安全性が変わります。まず患者一覧で危険度タグや急変リスクを確認し、直近24時間の変化と今夜の予定を把握します。感染対策、隔離、NPO、鎮静や疼痛コントロール、転倒ハイリスクなどは見落としやすいため、チェックリストで機械的に確認します。
タスクは時系列で並べ、重なる業務はチームで分担してダブルチェックを設定します。
- 病棟全体の稼働状況と危険度タグの確認
- 各患者の直近24時間サマリーとアラート履歴の確認
- 今夜の検査・輸血・投薬・処置のタイムライン作成
- 感染対策、隔離、NPO、アレルギーの再確認
- 転倒・せん妄・褥瘡などリスクスコアの把握
- チーム内の役割分担とダブルチェック設定
申し送りとSBARで全体像を素早く把握
申し送りは事実と判断を分け、要点を圧縮するのがコツです。SBARなら、状況、背景、評価、提案の順で簡潔に伝えられます。夜間に必要な提案は、観察頻度の調整、鎮痛や不眠への対策、アラート閾値の設定など。記録から引用する時刻と数値は必ず明記し、トレンドで語ると共有理解が揃います。
全員が同じテンプレートを使うことで抜け漏れを予防できます。
夜勤前の準備と申し送り:抜け漏れを防ぐコツ

抜け漏れの多くはフォーマットのばらつきとチェックポイントの不統一から生じます。病棟で統一した申し送りシートや電子テンプレートを作り、全員が同じ順番で確認する仕組みに変えると、個人差が縮小します。バイタルは単発値ではなく経時変化で読み、直近の医師指示や検査予定、禁忌や注意薬に必ず目を通します。
夜勤では家族からの情報、日中のリハ状況、他職種の所見も意思決定に有用です。受け取った情報は主観と客観を区別し、夜間の観察計画に反映します。特にせん妄や転倒は環境調整で改善するケースがあるため、備品配置や見守り体制の計画もこの段階で決めておくとスムーズです。
標準化された申し送りシートの作り方
申し送りは構造化が命です。患者識別、現状の問題リスト、重要な経過の時系列、今夜の計画、懸念点と対応案の順に並べます。観察項目は病態別に事前定義しておくと、当事者以外でもカバーできます。電子テンプレートに必須項目を設定し、未入力があれば警告が出るようにすると実務に乗りやすいです。
SBAR記入例の要点
S 現在の状況を1行で要約
B 既往歴、直近の手術や治療、リスク
A バイタルと所見のトレンドで評価
R 観察頻度、指示確認、連絡条件の提案
チェックすべきバイタルと医師オーダーのポイント
呼吸数、SpO2、意識状態は夜間悪化の早期サインで、血圧や脈拍より先に変化します。単発値ではなく、少なくとも直近6〜12時間の推移で評価します。検査や投薬のオーダーは時刻、前提条件、禁忌の再確認が必須です。輸液、鎮静、鎮痛、抗凝固薬、インスリンはダブルチェックを標準にし、必要な備品や前処置を前倒しで準備しておくと安全です。
夜間の観察・記録・連携:データを正しく残す

観察は頻度と深さの両方が重要です。全員一律ではなく、患者の重症度やリスクに応じて間隔を調整します。夜間特有のせん妄リスクや疼痛変動、体位変換の実施、尿量などのアウトプットは記録の盲点になりがちです。チェックボックスだけで済ませず、異常の根拠を短くテキストで補うと後続の判断が容易になります。
記録はタイムスタンプ、客観データ、介入、反応、次の計画の順で残すと再現性が上がります。エスカレーションは基準を事前に共有し、迷ったら相談の文化を徹底します。医師や救急の呼び出し時は、伝達前に必要データをコンパクトに集めておくと、治療開始までが短縮されます。
悪化兆候の早期発見と観察頻度
悪化は呼吸数増加、SpO2低下、意識変容、尿量減少、末梢冷感などの複合で現れます。トレンドで2項目以上の変化が同時に出れば観察頻度を上げ、評価を追加します。疼痛や不穏は夜間に増悪しやすいため、鎮痛の持続時間と睡眠状況を合わせて観ます。必要時は酸素投与、体位調整、採血の準備を並行しつつ、連絡基準に達したら速やかに報告します。
看護記録の書き方とエスカレーション
記録は主観と客観を分け、数値と時刻をセットで残します。介入前後の比較を明記すると、効果判定と次の一手が明確になります。連絡時はSBARで要点を整理し、伝えた内容と指示の復唱、確認者を記録します。再評価の予定時刻と中止基準も添えると、引き継ぎ後も途切れません。曖昧な表現は避け、観察事実に基づいた記述を徹底します。
電子カルテとデジタルツールの活用
電子カルテは単なる記録媒体ではなく、情報収集と意思決定を加速するプラットフォームです。患者一覧のカスタム表示で危険度や未完了タスクを一目化し、モバイル端末でベッドサイド入力を行うと、記憶頼みの作業が減り転記ミスも減少します。バーコードによる投薬確認とタスク管理機能は、夜間の安全性を大きく引き上げます。
同時に、通知が多すぎるとアラート疲労が起きます。重要アラートの閾値やサイレンスの運用ルールを整え、通知の優先度をチームで標準化しましょう。セキュリティは基本動作の徹底が最大の防御です。画面の覗き見、端末の置き忘れ、共有アカウントの使用など初歩的なミスをゼロにするルールと監査を組み込みます。
スマートデバイスとバーコード活用
モバイル入力は現場での一次情報を逃さない強力な手段です。バイタル、痛みスコア、点滴量、体位変換などをベッドサイドで即時入力すれば、タイムラグと転記ミスが減ります。バーコード投薬は患者識別、薬剤、時刻の三点照合を機械化でき、夜間のヒューマンエラーを抑えます。音声入力やテンプレ登録も活用し、長文は定型化、例外のみ自由記載にすると効率的です。
セキュリティと個人情報保護の要点
端末は自動ロックを短時間に設定し、離席時のロックを徹底します。共用アカウントは使用せず、二要素認証や端末証明書の運用を基本にします。病室での表示は必要最小限に留め、覗き見防止フィルムや画面輝度の配慮も有効です。紙メモは患者識別情報を書かず、勤務終了時に必ず廃棄します。万一のインシデントは速やかに報告し、再発防止策までセットで共有します。
紙メモと電子ツールの使い分け
緊急対応では紙の即時性が役立つ一方、転記や紛失のリスクがあります。電子は検索性と共有性に優れますが、端末や通信に依存します。場面ごとに最適解を選び、併用時は重複と矛盾を避けるルールを決めておきましょう。
| 用途 | 紙メモの利点 | 紙メモの注意 | 電子の利点 | 電子の注意 |
|---|---|---|---|---|
| 緊急時の一次メモ | 即時に書けて機動性が高い | 紛失・転記漏れのリスク | 時刻自動記録、共有が速い | 端末準備が必要、電源依存 |
| 投薬ダブルチェック | 相互に確認しやすい | 三点照合の抜けが起きやすい | バーコードで三点照合を自動化 | バーコード未登録時の代替手順が必要 |
| 巡回チェックリスト | 現場で回しやすい | リアルタイム共有が難しい | ステータス可視化、抜けの警告 | 入力負荷、操作教育が必要 |
| 申し送り要約 | 要点を即整理できる | 更新の反映漏れ | 最新データとリンク可能 | テンプレ依存で柔軟性低下に注意 |
まとめ

夜勤の情報収集は、準備、申し送り、観察、記録、連携という流れを標準化すれば、個人差と抜け漏れが大きく減ります。SBARで要点を圧縮し、トレンドで状況を捉え、電子ツールで識別と時間管理を機械化する。これだけで安全性と生産性は大きく改善します。セキュリティは基本動作の徹底が最大効果です。小さな習慣を積み上げて、強い夜勤チームを育てましょう。
今夜から使えるチェックリスト
出勤10分の準備
以下を順に確認して抜け漏れゼロへ
- 患者一覧で危険度と未完了タスクを確認
- 直近24時間の変化と今夜のイベントを時系列化
- 感染対策、隔離、NPO、アレルギーの再確認
- バイタルのトレンド、アラート履歴、観察頻度の設定
- 投薬と処置のダブルチェック、備品の事前準備
- 申し送りをSBARで要約、連絡基準と担当を明確化
- 端末ロック、バーコード機器の動作確認、紙メモの個人情報対策
よくある失敗とリカバリー
単発値だけで安心してトレンドを見落とす、申し送りで提案がない、タスクの重複で忙しさが偏る、アラート過多で重要通知を見逃す、紙メモの紛失などは典型です。対策は、観察の頻度再評価をルーチン化、SBARに提案を必ず含める、タスクを時系列で割り振る、アラート閾値と静音ルールを標準化、紙メモに識別情報を書かないこと。
うまくいかない時は、振り返りを短くてもその日のうちに行い、再発防止策をテンプレに反映させましょう。