転職したのに合わなかった、と感じたときに必要なのは我慢でも自己否定でもなく、状況の見える化と次の一手の設計です。
現場のリアルを理解しながら、辞めるか続けるかの判断軸、早期にできる調整、再スタート先の選び方、短期離職の伝え方、そして労働法や雇用保険のポイントまでを整理しました。
読み進めるだけで、今日から取れる打ち手が分かる実務ガイドとしてご活用ください。
目次
看護師の転職が合わなかったと感じたら
入職直後の違和感は珍しいことではありません。業務量、教育体制、夜勤回数、人間関係、カルテやルールの差など、ミスマッチの要素は複合します。
まずは原因を分解し、変えられる要素と変えにくい要素を分けることが重要です。変えやすいのはシフトや業務分担、教育プランの調整。変えにくいのは病院機能や患者層、組織文化です。
この切り分けが、続ける場合の現実的な調整と、再転職時の選定基準の両方に直結します。
感情的な判断を避けるために、30〜90日の観察期間を設け、記録を残しましょう。
日々の負荷、困り事、改善提案をメモし、上長や教育担当者に早期共有することで、配置やOJTの見直しが行われやすくなります。
一方で、ハラスメントや安全に関わる問題、違法な労働慣行がある場合は、我慢せず早期に相談窓口や外部機関も視野に入れてください。
よくあるミスマッチの種類
ミスマッチは大きく、業務量・教育体制・人間関係・価値観・待遇の五つに分類できます。
例えば急性期での高頻度な急変対応や残業の多さ、教育計画の不足、記録様式の違い、指導スタイルの相性などです。
給与や手当は求人票と就業規則の解釈差で齟齬が生じやすく、想定より夜勤手当が少ない、皆勤要件が厳しいといったケースも見られます。
種類ごとに対処は異なります。業務量は業務棚卸と役割調整、教育体制は面談での学習計画の再設計、人間関係は線引きと相談記録の活用、価値観の相違は部署移動の検討、待遇は書面確認と交渉が効果的です。
ミスマッチが複数重なるほど改善難度は上がるため、優先順位をつけ、短期で改善可能かを見極めましょう。
最初の30〜90日の見極めポイント
見極め期間では、日次では疲労度と業務遅延の原因、週次では教育進捗と上長のフィードバック、月次ではシフトと収入の着地を確認します。
チェック項目を簡素化し、時間外の多寡、申し送りの理解度、夜勤の習熟度、休日の回復度合いを数値や短文で記録すると、主観に偏らない判断が可能です。
面談はエビデンスが鍵です。困り事を事実ベースで伝え、代替案も提示しましょう。
例として、夜勤回数の段階的増加やプリセプター変更、特定業務の習熟までの猶予設定など。
一方、安全やコンプライアンスに関わる問題がある場合は、院内の相談窓口や外部の公的窓口への相談を併用し、記録と時系列を残してください。
相談相手と情報整理のコツ
直属の上長と教育担当に加え、人事や看護管理室、産業保健スタッフが重要な相談先です。
相談は一度で終わらせず、事前に要点をA4一枚でまとめ、面談後に合意事項をメモでリキャップすると、改善が進みやすくなります。
第三者の視点も有効です。地域の看護職相談、キャリア支援、転職エージェントなどは相場の助言や選択肢の提示が得られます。
ただし感情の発散だけでなく、意思決定の材料を集める場として活用し、ゴールと期限を明確にして相談しましょう。
- 困り事は何かを三つに絞って言語化できる
- 改善の仮説と代替案を準備している
- 面談の記録と合意事項を残している
- 安全や法令逸脱はないかを確認した
合わないときの初動対応と続けるか辞めるかの判断軸

初動でできる打ち手を講じつつ、三つの軸で判断します。
一つ目は安全と健康。重大な安全リスクや明確な違法がある場合は早期撤退が合理的です。
二つ目は改善可能性。配置転換や教育再設計で解決が見込めるなら、期限を切って検証します。
三つ目はキャリア一貫性。目指す専門性や生活設計との整合が取れるかで残留価値が決まります。
辞める前に、収入と生活の安全網を整え、引継ぎ、有給消化、社会保険の切り替えスケジュールを設計します。
退職までの実務計画を具体化するほど、不安は減り、次の選択に集中できます。
退職前に試す打ち手
まずは配置転換やシフト調整、教育計画の見直しを提案しましょう。
たとえば、夜勤入り回数の段階的増加、担当領域の一時的な絞り込み、プリセプター変更、OJTと集合研修の組み合わせ再設計などです。
書面やメールで要点を共有すると、院内の承認プロセスが進みやすくなります。
働き方の変更も検討余地があります。常勤から日勤常勤、非常勤、短時間勤務、応援的な短期契約など、制度上の選択肢が用意されている職場もあります。
雇用区分を変えることで負荷と報酬のバランスが合い、残留が最適となるケースも少なくありません。
退職判断の基準とリスク管理
判断の物差しは、健康リスク、改善可能性、キャリア整合性、生活資金の四点です。
健康を損なう兆候が強い、改善見込みが低い、将来像と乖離が大きい場合は、早期の方向転換が合理的です。
一方、改善策に手応えがあり、期限付きで検証できるなら、続ける選択も価値があります。
リスク管理として、貯蓄の目安は生活費3〜6か月分、家族の同意、次の候補先の事前リサーチ、書類や資格更新の準備を進めます。
退職の申し出は就業規則に従い、トラブル回避のため余裕を持って行いましょう。
- 30日間の記録と面談で改善策を合意
- 並行して次の選択肢を3件以上情報収集
- 改善効果を検証し、続行か転換かを決定
- 退職時期と手続きを逆算し実行
スケジュール設計のポイント
引継ぎ、有給、社会保険、失業給付の時系列を一枚にまとめます。
引継ぎ計画は業務一覧と担当者、期日を明記。有給は残日数と繁忙期を踏まえて申請。
保険は退職日と入職日で切れ目が出ないように調整し、ブランクがある場合は任意継続や国保への切り替えを検討します。
再転職までの生活費と収入の見込みを可視化します。非常勤や単発でのつなぎ就業、スキル研修の受講時期なども含め、無理のない計画に落とし込みましょう。
予定は変わる前提で、週次で見直すと安定します。
施設タイプ別の再スタート先の選び方

次の職場選びは、ミスマッチの原因から逆算します。
求める患者層、急性度、記録文化、チーム構成、教育体制、夜勤回数、通勤時間、給与体系などを項目化し、優先順位を明確にしましょう。
施設の機能や勤務形態で業務の質と生活リズムは大きく変わります。比較軸を持つことで、再度のミスマッチを予防できます。
見学や面談では、病棟の稼働状況、申し送りの様子、看護必要度、電子カルテの運用、教育計画、残業の実態、休憩の取り方など具体を確認します。
求人票だけでなく現場の動きに注目することが、納得度の高い意思決定につながります。
施設タイプの比較ポイント
施設機能ごとに、求められるスキルや働き方が異なります。
急性期は変化対応とチーム連携、回復期は機能回復支援と多職種協働、慢性期は安定した全人的ケア、クリニックは外来フロー運営、訪問は自立した判断と在宅支援、介護施設は生活支援と医療の橋渡しが中心です。
以下は代表的な違いの比較です。実態は法人や地域により幅があるため、見学での確認が欠かせません。
| 施設 | 主な特徴 | 残業傾向 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 急性期病院 | 高い急性度、処置多い、スピード重視 | やや多い | 変化対応や手技を磨きたい |
| 回復期・リハ | 機能回復、計画的ケア、多職種連携 | 中 | 経過を追い目標達成が好き |
| 慢性期・療養 | 安定した全人的ケア、生活支援 | 少なめ | じっくり関わりたい |
| 訪問看護 | 在宅、裁量大、移動あり | 変動 | 自立的に動ける |
| クリニック・外来 | 日勤中心、フロー運営 | 少なめ | 生活リズム重視 |
勤務形態の選択肢
常勤だけが選択肢ではありません。非常勤や時短、夜勤専従、派遣、短期応援など、多様な働き方があります。
常勤は安定と教育資源が得やすい一方、負荷も大きくなりがち。非常勤は日数や時間の柔軟性が高く、回復の猶予を作れます。
夜勤専従は収入効率が高い反面、健康管理が重要です。
転換期には、期間限定で非常勤や派遣を活用しつつ、目指す領域の学習や資格取得に投資する方法も有効です。
将来像から逆算して、今は負荷を下げるのか、専門性を優先するのかを決め、半年〜一年の設計図を描きましょう。
短期離職でも選考を突破する応募書類・面接対策
短期離職は不利と決めつける必要はありません。大切なのは、事実と学び、再発防止策を一貫性あるストーリーで示すことです。
書類では数値や固有名詞を用いた具体性、面接では簡潔さと前向きさが鍵になります。
ネガティブな表現の羅列は避け、環境批判に終始しない構成にしましょう。
職歴が短い場合でも、担当した業務、習得したスキル、改善提案の事例を抽出し、貢献の芽を示すことが評価に繋がります。
推薦状や研修修了証などの補助資料も効果的です。
履歴書・職務経歴書の書き方
基本は定量と定性のバランスです。
病棟区分、平均在院日数、看護必要度、担当患者数、夜勤回数、使用カルテなどを明記し、職務を箇条書きで整理。
短期離職の理由は一行で事実を述べ、学びと対策を二行で示す構造が読みやすく伝わります。
志望動機は、前職のミスマッチで得た自己理解を踏まえ、応募先の機能や教育体制との適合点を具体化します。
見学で得た情報を反映し、どの部署・どの役割で貢献できるかまで言及すると説得力が高まります。
面接での伝え方とNG例
面接は結論→理由→具体例→再発防止策の順で簡潔に。
例えば、夜勤負荷と教育設計のミスマッチが原因で早期離職に至ったが、自己分析と面談を通じて改善策を実行。次は回復期で計画的ケアを軸に力を発揮したい、などの構成です。
NGは、前職の個人批判、責任転嫁、長い言い訳、曖昧な志望動機。
事実と感情を分け、敬意を保ちながら、学びと行動で前を向く姿勢を示しましょう。
逆質問は教育体制、評価方法、夜勤の導入スケジュールなど、入職後のギャップを減らすテーマが有効です。
権利と手続きの最新ポイント・支援の活用

試用期間であっても労働者としての権利は守られます。
労働条件の不利益変更には原則として本人同意が必要で、解雇には客観的合理性と社会的相当性が求められます。
退職は民法の規定により、申し出から一定期間で可能ですが、就業規則の定めを踏まえ、円満退職のため余裕を持つのが実務的です。
雇用保険の基本手当は、待期期間と給付制限の仕組みがあります。
自己都合では待期後の給付制限が設けられるのが一般的で、詳細は離職理由や加入期間で異なります。
社会保険の切り替えや年金の種別変更も漏れなく行い、保険証の返却や税の手続きも確認しましょう。
試用期間・退職・有給の基本
試用期間中でも、賃金や労働時間の最低基準は法の保護下にあります。
労働条件通知書と就業規則を照合し、相違があれば早期に確認を。
退職は原則として退職の申し出から一定期間で効力が生じますが、引継ぎやシフト編成の観点から、1か月程度前に伝えるのがトラブル防止に有効です。
有給休暇は取得権があり、退職時の計画的な消化が可能です。
繁忙状況との調整は必要ですが、希望日と代替案を提示し、就業規則の運用と折り合いを付けましょう。
ハラスメントや未払い残業などの懸念がある場合は、院内窓口や公的機関に相談し、記録を残すことが自分を守ります。
支援サービスとメンタルケアの併用
転職エージェントは、施設の内部情報、選考対策、条件交渉の支援が得られます。
複数社を使い比べつつ、担当者に自分の優先順位とNGを明確に伝えると紹介精度が高まります。
院内の教育担当や看護管理室も、異動や負荷調整の相談窓口として活用しましょう。
メンタル面は予後に直結します。睡眠と食事、短時間の運動、同僚以外の相談相手の確保が基本です。
必要に応じて産業保健、地域の相談窓口、医療機関を早めに頼り、回復のための環境を整えましょう。
心身の安定が、次の良い選択の前提になります。
まとめ
転職が合わなかったときは、原因の分解と改善の打ち手、撤退の基準、再スタートの設計を順に進めることが鍵です。
施設機能と勤務形態の比較軸を持ち、書類と面接では学びと再発防止策を一貫して示しましょう。
権利と手続きを押さえ、支援資源を併用すれば、短期離職でも十分に巻き返せます。
今日できることは、小さな記録からです。
30日間の見える化、面談での合意、三つの応募先の情報収集。
行動は不安を小さくし、選択の精度を高めます。あなたのキャリアは積み上げで強くなります。焦らず、しかし確実に、次の一歩を踏み出してください。