重大なアウトカムのあとに自分の判断や手技が頭から離れず、看護師として自分のせいで死んだと感じてしまう瞬間があります。
臨床では誰にでも起こり得る強い自責と衝撃反応であり、専門的には第二被害者と呼ばれます。
本記事では感情と事実を区別し、患者家族への誠実な対応、組織的な再発防止、そしてあなた自身の回復を同時に進めるための実務と心得を体系的に解説します。
最新情報です。
今日からできる小さな一歩を、丁寧にご案内します。
目次
看護師 自分のせいで死んだ と思ってしまうときの初期対応
強いショック時は視野が狭まり、思考が極端になりがちです。
初期対応では事実保全と安全確保、そして自分の身体反応の安定化を優先します。
責める気持ちを否定せず、しかし判断や結論は保留にします。
ここが後の学びと回復の土台になります。
臨床で起こりやすい状況と心の反応
投与量の取り違え、時間超過、見落とし、アラームの消音、搬送や引継ぎ遅延など、複数要因が重なって重大事象は起こります。
直後は動悸、震え、涙、記憶の断片化、過度な反芻が出やすく、これらは自然なストレス反応です。
この段階での自己断罪は避け、まず落ち着きを回復します。
今すぐできること
安全の確保、主治医と責任者への即時連絡、バイタルや介入内容の正確な記録を行います。
口頭での推測や評価は控え、観察事実を具体的に残します。
水分摂取や呼吸法などで自律神経を整え、短時間でも同僚に同伴してもらいましょう。
やってはいけないこと
個人端末での撮影やチャット記録、SNSへの投稿、独断での口外は厳禁です。
記録の改ざんや消去、自己判断での謝罪金銭のやりとりも避けます。
一方で、関係者への連携や記録保全を怠ることも避けるべきです。
いま命の危険や自傷衝動がある場合は、部署の責任者、院内の緊急連絡先、または地域の緊急窓口にすぐ相談してください。
ひとりで抱え込まないでください。
あなたの安全が最優先です。
罪悪感の正体と第二被害者の理解

罪悪感は大切な価値観を持つ人ほど強く感じます。
しかし罪悪感と法的責任、過失の有無は異なる概念です。
第二被害者の理解は、適切な支援につながり回復を早めます。
罪悪感と責任の違いを言語化する
自分の気持ちと事実関係を切り分けるために、用語を整理します。
責任は役割に基づく説明責任、過失は注意義務違反、罪悪感は道徳的感情です。
混同を避けることで過度な自己非難を和らげられます。
| 概念 | 定義の要点 | 臨床での扱い方 |
|---|---|---|
| 罪悪感 | 価値観に反したと感じる感情 | ケアや心理的支援で扱う |
| 責任 | 説明と改善の役割 | 事実に基づき共有と改善 |
| 過失 | 注意義務の逸脱 | 調査と再発防止、必要な手続き |
| システム要因 | 環境や手順の欠陥 | 組織で是正する |
モラルインジャリーと第二被害者
患者の悪化や死亡に関わった後、価値観の損なわれ感を抱く状態をモラルインジャリーと呼びます。
第二被害者は医療者が被る心理的外傷の概念で、早期支援が回復と離職防止に有効です。
院内ピアサポートやカウンセリングを活用しましょう。
専門的支援の選び方
選択肢には産業保健、EAP、心理師のカウンセリング、主治医、スーパービジョンなどがあります。
睡眠障害、フラッシュバック、業務回避が続く場合は専門家につながるサインです。
職場の制度を確認し、早めの相談を心がけます。
事実確認と報告の実務

感情の波と並行して、事実の記録と報告は待ったなしです。
透明性を保ち、学びにつなげる運用を心がけます。
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記録の残し方
時刻、観察、実施内容、指示受けの根拠、関係者を具体的に記載します。
推測表現は避け、患者の反応やバイタルの数値を数式ではなく単位とともに記します。
修正時は訂正履歴を残し、原本は保全します。
インシデント報告と院内連携
速やかな一次報告、関連部署の招集、タイムアウト形式の共有が有効です。
個人非難でなくプロセス可視化に焦点を当てます。
二重チェックや機器ログの取得も並行して行います。
家族説明の基本
事実と不確実性を分けて伝え、現時点で分かっていること、今後の調査と再発防止の方針を明確にします。
お悔やみと誠実な姿勢を示し、質問を受け止めます。
記録者の同席、議事録の作成、再面談の約束を行います。
医療安全の視点で捉え直す
重大事象は単独の人為ミスではなく、複数の穴が重なるスイスチーズモデルで説明されます。
個人の責めから学習文化への転換が鍵です。
あなたの経験は組織の安全を高める資源になり得ます。
システム要因と設計の見直し
似たラベル、アラート疲労、夜勤帯の人員、搬送動線、電子カルテのUIなど、設計の問題が潜みます。
HFMEAやRCA2でプロセスを分解し、実装可能な対策に落とし込みます。
現場の声を中心に検討します。
ジャストカルチャーと学習の仕組み
過失の範囲を評価しつつ、意図的逸脱と誠実な誤りを区別します。
個人を罰するより、教育と環境改善で再発を防ぎます。
ピアレビュー、カンファレンス、シミュレーションを定期化します。
再発防止策の具体例
- 投与はバーコードと二者確認の併用
- 侵襲前タイムアウトの標準化
- SBARでの申し送り徹底
- 高リスク薬の保管ゾーニング
- 夜勤の小休憩と仮眠ルール
- 新人と応援者のペアリング
自己ケアと職場ケアを両輪で進める

臨床の改善と同じくらい、あなた自身の回復を計画的に進めます。
身体の安定、感情の整理、役割の再構築の三層で考えます。
24時間のセルフケア
カフェインとアルコールを控え、短時間でも睡眠機会を確保します。
温かい飲み物、軽い散歩、呼吸法が有効です。
反芻が止まらない時は紙に箇条書きし、後で検討すると決めると鎮静しやすくなります。
チームでのデブリーフィング
心理的安全性を保ち、事実→解釈→感情→次の一歩の順で共有します。
責任の所在探しを避け、プロセス学習に集中します。
ファシリテーターの配置が効果的です。
休職や配置転換の判断
不眠、集中困難、回避が生活に支障する場合は一時的な勤務調整を検討します。
医師の意見と産業保健で判断基準を整え、復帰は段階的に行います。
できる範囲を選ぶことは弱さではなく専門職の自己管理です。
- 今ある感情を否定せずメモする
- 事実の時系列を箇条書きにする
- 安全と記録の確保を最優先にする
- 一人で判断しないために連絡する
- 休息の計画を入れる
よくある不安と実務のQ&A
多くの看護師が同じ不安を経験します。
共通する論点と実務のコツをまとめます。
夜勤中の判断が不安
夜間は認知資源が低下し、ミスのリスクが高まります。
複雑な判断はSBARで即時コール、迷ったらタイムアウトを宣言します。
二者確認とチェックリストの徹底が守りになります。
報道や周囲の目が怖い
外部対応は組織の方針に従い、個人での発信は控えます。
内部での誠実な調査と再発防止こそが最善の説明責任につながります。
心理的支援を受けて心身の安全を優先しましょう。
現場復帰の目安
睡眠が取れ、作業中のフラッシュバックや強い回避が和らぎ、支援ネットワークが機能していることが一つの目安です。
段階的なシフト、同行期間を設け、定期的に状態を共有します。
無理のない形で専門性を回復します。
患者家族と向き合うための姿勢
家族は事実を知りたい、誠実に向き合ってほしいという思いを持っています。
防御的にならず、尊厳を守るコミュニケーションを意識します。
誠実な説明の要点
わかっていること、わからないこと、今後の方針、再発防止の取り組みを簡潔に伝えます。
専門用語は避け、比喩ではなく具体の言葉を選びます。
再面談の窓口と予定を明示します。
謝意とお悔やみの伝え方
治療への協力への感謝とお悔やみをまず伝えます。
その上で、質問を遮らずに聴き、感情を受け止めます。
記録は丁寧に残し、同席者を配置します。
法的手続きが絡む場合
院内規程と外部の調査制度に沿って進めます。
個人の見解を断定せず、事実の共有に徹します。
必要に応じて法務やリスク管理担当と連携します。
まとめ
自分のせいで死んだと感じるほどの出来事は、誠実に働いてきた証でもあります。
しかし結論を急がず、事実の確認、家族への誠実な対応、システムの学習、そしてあなた自身の回復を同時に進めてください。
支援は弱さではなく専門職の力です。
今日の一歩が、明日の安全と看護の質を必ず高めます。