便や尿、嘔吐物、痰、血液などの汚物対応に苦手意識を持つことは、多くの看護師にとってごく自然な反応です。
それでも現場では安全と尊厳を守りながら、確実に処置をやり遂げる力が求められます。
本記事では、苦手の原因理解から具体的な臭い対策、感染対策、メンタルケア、チームでの工夫、配置転換の考え方までを体系的に解説します。
今日から現場で使える小さなコツと、無理せず継続できる工夫をまとめました。
目次
看護師が汚物に苦手意識を持つのは普通です
汚物に対する嫌悪は人間の防御反応の一つで、看護師でも感じるのが普通です。
臭い、見た目、触感、音、量、突発性など複数の刺激が同時に来るため、負荷が高くなりやすいのが特徴です。
苦手でも、標準予防策を守り安全に完遂できれば臨床で十分に通用します。
大切なのは、反射的な嫌悪をゼロにすることではなく、作業を安全に進められる手順と環境を整えることです。
自分のトリガーを知り、臭いの遮断、視覚のコントロール、役割分担などで刺激を適正化すると、負担は確実に下がります。
苦手になる主な理由
嗅覚は情動と記憶に直結しやすく、臭いが強いと嘔気や頭痛を誘発します。
視覚や触覚の想像が先行して不安が増す予期不安も原因です。
経験不足で段取りが見えず、終わりが見えない感覚がストレスを増やします。
さらに、急いで対処せざるを得ない状況や、夜勤帯の人手不足など環境要因も負荷を高めます。
これらは個人の弱さではなく、誰にでも起こり得る反応です。
苦手でも現場で通用する基準とは
標準予防策を遵守し、曝露リスクを最小化できることが第一です。
次に、患者の尊厳を守りながら、必要十分な速度と正確さで処置を終えられることです。
苦手の程度はあってよく、事前準備と支援要請が適切にできるなら業務は成立します。
完璧主義は逆効果です。
安全と清潔の基準を外さず、段取りに沿って確実に進めることが最重要です。
まず押さえる前提と心構え
苦手を否定せず言語化し、事前にチームと共有することが助けになります。
小さな成功体験を重ねることで、反応は徐々に弱まります。
体調不良時は無理をせず、交代や時間調整を早めに相談しましょう。
処置後のセルフケアを必ずセットにしましょう。
深呼吸、手洗いと保湿、短い水分補給だけでも回復感が出ます。
臭いと視覚刺激を和らげる実践テクニック

臭いと視覚刺激を減らせると、嘔気やストレスの大半が軽減します。
器具と手順の工夫で、同じ処置でも負担は大きく変わります。
準備八割の意識で臨みましょう。
マスクと嗅覚ハックの組み合わせ
サージカルマスクの上にカップ型やN95相当のマスクを重ねる二重化は有効です。
マスク内側に少量のメントール系リップやアロマパッチを使うと臭いストレスが下がります。
鼻孔入り口にワセリンを薄く塗ると臭い分子の付着を抑えられます。
強い香りは患者に不快を与えることがあるため、香りは微量で医療現場に適した無香または弱香タイプを選びます。
施設の方針に沿って使用の可否を確認しましょう。
作業手順の分解と役割分担
除去、洗浄、乾燥、保護という工程に分け、最も負担の高い除去工程を時間短縮します。
二人対応が可能なら、除去役と器具準備役に分けると効率化します。
視線は手元の清潔域に固定し、強刺激の部位は必要最小限だけ見るようにします。
吸引や固化剤でボリュームを減らしてから拭き取りに移ると、臭いと飛散が抑えられます。
バリアシートやディスポシーツで汚染範囲を限定します。
汚染最小化の準備と片付け動線
入室前に必要物品をトレーに集約し、清潔域と不潔域をテープで明示します。
袋は二重、結束はガス抜き後に固く結びます。
ドアからゴミ置き場までの最短動線を確保し、通行の少ない時間帯に搬出します。
退出時は手袋外し→手指衛生→ガウン外し→手指衛生→アイプロテクション→手指衛生→マスク→手指衛生の流れで、自己曝露を防ぎます。
脱いだ直後に保湿剤で皮膚のバリア機能を回復させます。
標準予防策と感染対策の最新ポイント

標準予防策は全ての患者に適用する基本原則です。
汚物対応では飛散、接触、吸入の三経路を意識し、個人防護具と動線管理でリスクを最小化します。
手順をチームで共通化し、迷いを減らすことが安全につながります。
PPEの優先順位と着脱手順
顔面保護は後回しにされがちですが、嘔吐や喀痰では最優先です。
フェイスシールドまたはアイガード、マスク、袖付きガウン、手袋の順で完全装備を意識します。
サイズの合ったガウンと手袋の袖口テープ留めは袖の汚染を減らします。
着脱は汚染側から遠い順に外すのが基本です。
手袋の外し方はピンチ法を徹底し、外した手で顔や髪に触れないようにします。
着脱場所は汚染側と清潔側を明確に区切ります。
手指衛生と皮膚ケア
アルコール手指消毒は適量で20〜30秒、塗り残しの出やすい親指、指先、指間を意識します。
汚れが目に見える場合は石けんと流水で洗浄します。
頻回の洗浄後は保湿剤で皮膚バリアを守り、皮膚トラブルを予防します。
ひび割れやささくれは曝露リスクを上げます。
勤務前の短時間でも保湿をルーティン化すると効果的です。
汚染物の処理と廃棄
便や嘔吐物は固化剤でゲル状にしてから密閉することで飛散と臭気を抑えられます。
鋭利物は専用容器に即時廃棄し、袋の詰め込みすぎは破袋の原因になります。
搬出は周囲への声かけと動線確保で二次汚染を防ぎます。
洗浄可能な器具は事前浸漬を避け、即時洗浄か洗浄室へ直行します。
手指衛生と環境清拭をセットで完了とします。
感染症別の注意点
ノロウイルスは微量でも感染力が強く、飛沫またはエアロゾル化に注意します。
次亜塩素酸ナトリウム系で環境清拭を行い、布類は密閉搬送します。
血液媒介病原体は穿刺と粘膜曝露の回避が最優先です。
結核疑いでは陰圧室や適切な呼吸防護が必要です。
施設手順に基づき、疑い時点で上位のPPEに切り替えます。
メンタル面の乗り越え方
嫌悪の感情を直接消そうとせず、反応の出方を予測し、対処スキルで上書きするのが現実的です。
事後のリカバリーを含めた一連のセルフマネジメントを習慣化しましょう。
体験の意味づけとスクリプト化
処置前に三行のスクリプトを用意します。
準備完了、除去五分、清拭三分のように時間と工程を明確にします。
終わりが見えることで不安が減ります。
終わったら自分の良かった点を一つ記録します。
できた行動の積み重ねが自己効力感を高め、次の場面を楽にします。
段階的曝露と脱感作
臭いの弱い場面から順に経験を増やし、徐々に難易度を上げます。
模擬材料やシミュレーションでの練習を組み合わせると安全に慣れていけます。
トレーニングは短時間で高頻度の方が定着します。
過度の失敗体験は逆効果のため、サポート役をつけるなど成功条件を整えます。
無理をしない撤退基準もあらかじめ決めておきます。
匂いトリガーへの対処
事前のペパーミントやレモンの香りで嗅覚をリセットし、マスク内の清涼感を保ちます。
鼻呼吸に集中し、口呼吸を避けると嘔気が出にくくなります。
作業後は新鮮な空気を吸い、温かい飲み物で回復を促します。
強いトリガーは記録して次回の対策を具体化します。
同僚との短い振り返りは情動の解毒に役立ちます。
教育とトレーニングの活用

現場ベースの反復練習が最も効果的です。
忙しい病棟でも短時間のマイクロトレーニングを組み込むと技能が伸びます。
個人学習とチーム学習を併用しましょう。
シミュレーション教育
模擬汚物や臭い素材を用い、手順、声かけ、PPE着脱を通しで練習します。
タイムトライアルで所要時間を短縮し、動作の無駄を削ります。
ビデオで姿勢や視線の使い方を客観視するのも有効です。
ケースバリエーションを増やし、嘔吐、下痢、多量出血など場面別の定石を体に染み込ませます。
学んだことは業務手順書に反映し、全員の標準にします。
先輩の暗黙知から学ぶ
臭いが強い場面での息継ぎのタイミング、タオルの当て方、体位の作り方などは実地で学ぶのが早道です。
上手な人の段取りを言語化して記録し、病棟の知として共有します。
見学だけでなく部分的に役割を担い、体験化します。
終業後の5分ふりかえりで、うまくいった工夫を一つ持ち帰る習慣を作ります。
継続が力になります。
研修チェックリスト
準備物品、PPE着脱、動線、声かけ、廃棄、片付け、セルフケアの各項目で達成基準を明確にします。
チェックリストは更新し、病棟で共通の型を持つと新人教育が安定します。
評価はできた行動に焦点を当て、次の一歩を具体にします。
- 入室前に物品一式をトレーに集約したか
- PPEのサイズと順番は適切か
- 清潔域と不潔域を可視化したか
- 除去工程の時間目標を決めたか
- 廃棄袋は二重で密閉したか
- 退出後の手指衛生と保湿を行ったか
患者の尊厳を守るコミュニケーション
汚物対応こそ、患者の尊厳を守る声かけと配慮が不可欠です。
丁寧な予告、痛みや寒さへの配慮、目線の高さを合わせることが安心感を生みます。
不快な臭いの場面でも、表情と言葉遣いは中立的に保ちましょう。
予告と説明
今から行うこと、所要時間、痛みや冷たさの可能性を簡潔に伝えます。
終わりの見通しを共有し、同意を得ながら進めます。
不快があればすぐ伝えて良いことを最初に伝えます。
嘔気や腹部不快が強い場合は休止サインを決めておくと安全です。
合図があると患者も我慢しすぎずに済みます。
プライバシーと体位
カーテン、タオル、ブランケットで露出を最小限にします。
体位は安全と尊厳の両立を意識し、声かけしながらゆっくり整えます。
寒さ対策に温罨法や温タオルを準備すると負担が減ります。
終了後は衣類のしわを伸ばし、姿勢を整えてから離れます。
最後の一手間が大きな安心につながります。
ご家族対応
同席の可否と役割を事前に確認します。
見守りのみか、離席をお願いするか、状況に応じて柔軟に対応します。
処置後は簡潔に状況を共有し、在宅での注意点があれば説明します。
羞恥心に配慮し、評価的な表現は避けます。
事実に基づく説明で安心を提供します。
職場の仕組みで苦手を補う
個人の努力だけに頼らず、チームと仕組みで負担を下げるのが賢明です。
申し送りや勤務配置、物品配置の最適化は即効性があります。
病棟全体での合意形成が鍵です。
申し送りとチーム編成
汚染リスクの高い患者や時間帯を申し送りで明確にします。
経験の浅いスタッフにはペアリングやバックアップを準備します。
突発対応の呼び出し合図や合流場所を決めておきます。
同僚間で得意と苦手を補完し合う文化を作ります。
助け合いの可視化は心理的安全性を高めます。
時間帯と人員の調整
排泄ケアの集中する時間帯に人員を厚く配置します。
入浴や経腸栄養の前後など、汚染が増えやすいタイミングを見越して準備します。
物品補充は前倒しで行い、ピーク時の欠品を防ぎます。
夜勤帯は搬出動線を短縮し、巡回計画に清拭や廃棄の時間を組み込みます。
時間管理で精神的な余裕が生まれます。
体調や妊娠時の配慮
嘔気や匂いに過敏な時期は、チームで配置と役割を見直します。
必要に応じて産業保健や上長に相談し、合理的配慮を受けます。
無理をして事故につながることを避けるのが最優先です。
香料の強い対策は同僚への配慮も必要です。
共通ルールを定めておくとトラブルを防げます。
キャリア選択と配置転換の考え方
全ての分野で均一に対応できる必要はありません。
苦手が強い時は、配置の工夫やキャリアの選択で適性を活かす方法があります。
長期的な視点で柔軟に考えましょう。
配置の向き不向き
急性期の救急や消化器内科は嘔吐や下痢の頻度が高い傾向があります。
透析、外来、健診などは汚物対応の頻度が比較的低い場合があります。
病院や部署ごとの実情を確認することが大切です。
同じ病棟でも担当業務で負担は変わります。
薬剤準備や記録中心の時間帯を増やすなど、役割で調整可能です。
苦手と強みの棚卸し
匂いが苦手でも、観察力やコミュニケーション、手先の器用さなど他の強みが活きます。
強みを言語化し、苦手を補う形で役割を提案すると受け入れられやすくなります。
定期的に自己評価を更新しましょう。
目標は苦手の消去ではなく、総合力で価値を出すことです。
視野を広く持つと選択肢が増えます。
転職や異動時の伝え方
苦手の事実は簡潔に述べ、対策と代替案をセットで伝えます。
例えば、嘔吐対応は支援が必要だが、教育や記録整備で貢献できるなど具体性が重要です。
採用側は課題と解決策をセットで語る姿勢を評価します。
見学や体験シフトで現場の負荷を事前確認するのも有効です。
ミスマッチを減らせます。
便利アイテムと設備の比較
アイテム選びは臭気低減、作業時間短縮、曝露リスク低減の三基準で評価します。
コストと保管性、患者への配慮も含めて総合判断します。
以下に代表的な手段を比較します。
| 対策 | 主な効果 | コスト感 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 固化剤 | 液体をゲル化し飛散と臭いを抑制 | 中 | 使用量と廃棄区分を確認 |
| 二重マスク | 臭い遮断と飛沫防護の強化 | 低〜中 | 呼吸抵抗に注意 |
| フェイスシールド | 顔面飛散の防止 | 低 | 曇り対策が必要 |
| 消臭パウダー/スプレー | 臭気の中和 | 低〜中 | 香りの強さに配慮 |
| バリアシート/ディスポシーツ | 汚染範囲の限定と片付け短縮 | 中 | 在庫管理が必要 |
| 密閉蓋付き容器 | 廃棄までの臭気封じと安全搬送 | 中 | 洗浄手順の徹底 |
消臭や固化の製品を選ぶ視点
臭いの元を中和するタイプか、香りで上書きするタイプかを見極めます。
小分けが可能で、緊急時に素早く使える形状が便利です。
患者や同僚への香り配慮を最優先にします。
固化剤は対応する液量の目安を確認し、過不足なく使える規格を選びます。
保管は湿気を避け、期限管理を徹底します。
清掃カートとゾーニング
清掃カートは汚染物と清潔物の棚を分け、色分けで一目化します。
汚物室や洗浄室への動線を短くし、ドア前の滞留を避けます。
夜間は騒音対策も考慮します。
ベッドサイドに仮設の清潔ゾーンを作ると作業が安定します。
小さな工夫で大きく効率が上がります。
使い捨てと再利用のバランス
飛散リスクの高い工程は使い捨て中心でスピード優先にします。
再利用品は洗浄の手間と曝露リスクを考慮して選択します。
コストは安全を損なわない範囲で最適化します。
物品の標準化は教育と在庫管理を容易にします。
採用物品は病棟でレビューし、継続可否を定期評価します。
よくある質問
汚物が苦手な看護師がよく抱く疑問に、要点を簡潔にまとめます。
一つずつ解決していきましょう。
いつか必ず慣れますか
全員が完全に平気になるわけではありませんが、段取り化と成功体験で実務上困らないレベルには多くの人が到達します。
無理のない段階的練習とチームの支援が鍵です。
今日は昨日よりも5分短くできたなど、行動指標で成長を測りましょう。
感情の強さより、結果の安全性と確実さが重要です。
評価軸を適切に設定しましょう。
吐きそうになったらどうする
いったん動作を止めて深い鼻呼吸、視線を清潔域へ、肩の力を抜きます。
同僚に30秒の交代を依頼し、マスクの位置を調整します。
ミント系の香りでリセットするのも有効です。
限界前に声をかけることは責任ある行動です。
我慢しすぎは事故につながります。
業務を断っても良いですか
安全を損なう体調や曝露リスクが高い状況では、上長に報告し役割の調整を求めるのが適切です。
平時から対策と代替案を準備し、チームで補完できる体制を整えておきましょう。
患者の安全を最優先に考えた相談は正当です。
継続的に困難が強い場合は配置見直しや教育機会の追加を検討します。
個人責任に矮小化しないことが大切です。
学生や新人は何から練習すべき
PPEのサイズ合わせと素早い着脱、物品トレーの標準パック化、廃棄の密閉結束から始めます。
模擬材料で除去から清拭までを通しで2回、翌日に再現する反復が効果的です。
先輩の動作を観察し、良いポイントを真似して自分の型にします。
できたところを言語化して記録し、次回の目標を一つだけ設定します。
小さな改善で十分です。
まとめ
汚物が苦手でも大丈夫です。
臭いと視覚の刺激をコントロールし、段取りとPPEで安全を確保すれば、臨床で確実に通用します。
個人の工夫に加え、チームの支援と職場の仕組み化で負担は大きく下がります。
今日からできることは、物品の事前集約、二重マスクや固化剤の準備、動線の可視化、処置後のセルフケアです。
苦手を否定せず、成功体験を積み重ねましょう。
あなたの専門性は、苦手の有無ではなく、安全で尊厳を守る行動によって示されます。