海外滞在中に、いつもの医師へ相談したい、持病の薬を途切れさせたくない、現地の医療に不安があるなど、オンライン診療へのニーズは高まっています。
ただし、国境をまたぐと医療制度、医師免許、処方の可否、保険適用、個人情報保護など多くのルールが関係します。
本記事では、海外からオンライン診療を受ける際の原則、国や地域ごとの違い、処方や費用の実務、セキュリティ、症状別の使い分け、手順とチェックリストまで、医療現場の視点でわかりやすく解説します。
最新情報です。
居場所の国と医師の国、双方の規制を確認し、緊急症状は直ちに現地の救急へ。
本記事は一般的な情報であり、個別の法的助言に代わるものではありません。
目次
海外からオンライン診療は可能か。制度の基本と前提
結論として、海外からオンライン診療を受けられるケースはありますが、可能かどうかは居場所の国と提供側の国の両方の法令に左右されます。
一般に医療行為は患者の居場所で行われたと解されることが多く、その国での医師免許や提供要件が問題になります。
また処方や保険、記録管理、個人情報の越境移転にも固有のルールがあります。
医療安全の観点からは、緊急を要する症状はオンラインよりも現地での対面受診が優先です。
オンライン診療は非緊急の相談、慢性疾患の継続治療、セカンドオピニオン、健康相談などに適しています。
適応判断は症状とリスクで決まり、制度上の可否だけでなく医師の臨床判断も重要です。
どこで医療行為が行われたと見なされるか
多くの法域では、医療行為は患者の所在国で行われたと見なされます。
そのため、医師は患者がいる国での医師免許や、遠隔医療に関する追加要件を満たす必要が生じます。
一方で、提供側の国の規制も適用されるため、双方の整合が必要です。
実務上は、提供者は患者の居場所を確認し、当該国での提供可否や範囲、処方の制限を事前に説明します。
国境をまたぐ場合は、相談やセカンドオピニオンに限定し、処方は現地医師に引き継ぐ運用が選択されることがあります。
日本の公的保険と民間保険の扱い
日本の公的医療保険の算定は、原則として国内での診療提供を前提とします。
被保険者が海外に所在する場合、算定や手続きに制約が生じることが一般的です。
そのため、海外から日本の医療機関へオンラインで相談する場合は、自費診療として案内されることがあります。
一方、海外旅行保険や駐在員向けの国際医療保険は、テレメディシン相談を特約に含める商品が増えています。
事前に契約内容を確認し、カバーされる範囲、自己負担、適用対象のプラットフォームを把握しておくと安心です。
留学・駐在・旅行など滞在目的による違い
短期旅行者は、急性上気道炎や胃腸炎、軽い皮膚症状などの初期アドバイスにオンラインを活用し、必要時は現地受診へ早期切り替えが安全です。
留学生や長期滞在者は、慢性疾患のフォローや服薬調整、メンタルヘルスの継続支援にオンラインが有効です。
駐在やデジタルノマドは、現地の主治医を持ちつつ、母国の医師のセカンドオピニオンを組み合わせるハイブリッド運用が現実的です。
どのケースでも、処方と保険の取り扱い、緊急受診先の確保を事前に整えておくことが重要です。
国・地域ごとの規制とライセンスの違い

各国は歴史や制度に基づく独自の遠隔医療ルールを持ちます。
下表は要点比較です。
実際の可否は個別の状況で異なるため、事前確認が必須です。
| 地域 | ライセンス原則 | 処方の基本 | 保険適用の目安 |
|---|---|---|---|
| 日本 | 患者所在国の法令に留意。 国内免許で国外患者対応は慎重運用 |
日本の処方箋は国内薬局で有効 | 公的保険は原則国内前提 |
| 米国 | 患者の所在州での州免許が原則 | 規制薬は特別要件。 州法と連邦規則に従う |
公的・民間ともに条件付き |
| EU | 加盟国免許制。 一部相互運用あり |
一部国間で電子処方の相互利用が進展 | 各国制度に依存 |
| 英国 | GMC登録が前提。 民間提供が盛ん |
規制薬は厳格管理 | NHSは居住要件 |
| シンガポール | 所管当局のライセンス必須 | 遠隔での処方は条件付き | 民間中心 |
| オーストラリア | AHPRA登録。 患者所在が国内かで取扱い変化 |
一部薬は対面前提 | Medicareは国内前提 |
日本の方針と医師法の考え方
日本では、オンライン診療の指針や算定要件が整備され、国内居住者への活用が広がっています。
一方、海外所在の患者への提供は、相手国の法令との整合や処方の実効性の観点から慎重に運用されています。
処方箋の有効範囲は国内であり、現地での受け取りは基本的にできません。
そのため、相談やセカンドオピニオンを中心に、処方は現地医療へ引き継ぐ二段構えが実務的です。
医療機関は本人確認、居場所確認、緊急時の切り替え先を明確にして提供します。
米国の州ライセンスと一時的緩和の動向
米国では患者がいる州の医師免許が原則で、越州や越境提供には制約があります。
コロナ禍での一時的緩和は段階的に見直されつつ、遠隔診療の定着が進み、要件の整理が続いています。
規制薬の遠隔処方は特別な条件があり、対面要件や身元確認が厳格です。
保険面では、メディケアやメディケイド、民間保険がテレヘルスを広くカバーしつつ、対象サービスや場所に条件が付く点に留意が必要です。
海外から米国医師に受診する場合は、免許・所在・支払いの三点確認が必須です。
EUと英国の遠隔医療の枠組み
EUは加盟国ごとに制度が異なるものの、医療データの相互運用や一部の電子処方の相互利用が進展しています。
GDPRに基づく厳格なデータ保護が求められ、越境データ移転には適法な根拠が必要です。
英国はGMC登録医による民間の遠隔医療が普及しており、居住者はNHS経由の遠隔診療も活用できます。
海外からの利用は民間提供が中心で、処方や配送に制限が残ります。
シンガポール・オーストラリア・その他アジア太平洋の要点
シンガポールは専用ライセンスの下で遠隔医療を管理し、質と安全の基準が明確です。
海外患者への提供は相手国法とプラットフォーム要件の両立が前提です。
オーストラリアはAHPRA登録やMedicareの要件があり、遠隔診療は国内居住者向けが中心です。
その他のアジア太平洋地域も、処方や本人確認の要件、規制薬の扱いに相違が大きく、個別確認が不可欠です。
時差や通信環境など実務面
時差が大きい場合は、チャット併用や非同期相談が有効です。
通信は医療機関が推奨するアプリやブラウザを使用し、事前のテスト接続でビデオ・音声・照明を確認します。
本人確認書類、既往歴、内服リスト、アレルギー、現地住所と連絡先、緊急時の搬送先情報を事前共有すると診療が円滑です。
医療通訳や家族の同席も安全性を高めます。
処方・検査・継続処方の実際

オンライン診療の成否は、診断後の処方や検査をいかに実行できるかにかかります。
国境をまたぐと、電子処方の有効範囲、配送や受け取り、規制薬の取り扱い、検査機関との連携が課題になります。
電子処方の有効範囲と国際郵送の可否
電子処方を含む処方箋は、基本的に発行国の制度下でのみ有効です。
日本で発行された処方箋は国内薬局での調剤が前提で、海外の薬局では使用できません。
医薬品の国際郵送は多くの国で厳しく制限されています。
現実的な選択肢は、オンラインで治療方針を確認した上で、現地の医師へ紹介し、現地の薬局で受け取る流れです。
欧州では一部国間で電子処方の相互利用が進みつつありますが、対象国や薬に限定があるため事前確認が必要です。
向精神薬・麻薬など規制薬の取扱い
向精神薬、睡眠薬、麻薬性鎮痛薬などは、遠隔処方に厳格な要件が課されます。
多くの法域で対面診察歴や追加の本人確認、処方量の上限が定められています。
旅行や一時滞在で継続が必要な場合は、出国前に主治医と計画を立て、携行できる量と証明書の準備、現地規制の確認を行いましょう。
オンラインのみでの新規開始は避け、必ず現地の専門医に相談するのが安全です。
海外で検査を受ける場合の連携方法
採血や画像検査は、現地の検査機関や病院で実施し、結果レポートを安全な方法で共有します。
共通フォーマットのPDFや英語レポート、DICOMの活用が有効です。
測定機器を用いた在宅モニタリングは、規格準拠のデバイスを選び、測定日時と単位系を統一します。
結果はプラットフォームにアップロードし、医師が解釈可能な形で提出すると診療の質が高まります。
セキュリティ・個人情報保護と同意
海外からの受診では、医療情報の越境移転が発生しうるため、プライバシー保護とセキュリティ対策が重要です。
利用規約、同意文書、データの保存先、第三者提供の有無を確認しましょう。
GDPR・HIPAA・個人情報保護法のポイント
EU圏の個人データはGDPRに基づく厳格な管理が必要で、健康情報は特に高い保護が求められます。
米国の医療提供者はHIPAAの要件に適合したプラットフォームを使用します。
日本の個人情報保護法も医療情報の厳格な扱いを求めており、目的外利用の禁止、第三者提供の管理、漏えい対策が必須です。
患者側も安全な通信環境を確保し、共有デバイスの利用を避けましょう。
データの越境移転とクラウドの選び方
データの保存先が海外クラウドの場合、越境移転の法的根拠や契約条項の確認が必要です。
アクセス権限の最小化、多要素認証、監査ログ、暗号化の実装が望まれます。
提供者はデータ処理の委託先を明示し、患者は同意の範囲と撤回手続きを理解しておくと安心です。
記録の保管期間や削除方針も確認しましょう。
本人確認・同意取得・記録管理
パスポートなど顔写真付き身分証での本人確認が基本です。
未成年は保護者の同意と同席が求められることがあります。
同意文書には、診療の限界、緊急時の切り替え、データの取り扱い、処方の制約を明記します。
診療記録はタイムゾーンを明示し、改ざん防止措置を講じます。
費用・支払い・保険適用

費用は提供国の価格体系、支払い手段、保険の有無で大きく変わります。
見積り、通貨、領収書の記載、返金条件を事前に確認しましょう。
公的保険の可否と自己負担の目安
公的保険は原則として国内での提供に適用され、海外からの受診は自費となるケースが多いです。
初診や長時間相談、専門医のセカンドオピニオンは、料金が高めに設定される傾向があります。
プラットフォーム利用料、時間外加算、書類発行料が別途かかることもあります。
事前に総額の上限と支払い通貨を確認してください。
海外旅行保険・駐在保険のテレメディシン特約
多くの旅行保険がテレメディシンをカバーし、キャッシュレスで利用できる場合があります。
指定プラットフォームの利用が条件のこともあるため、保険会社の案内に従いましょう。
駐在保険や国際医療保険は、慢性疾患のフォローやメンタルヘルス支援を含むプランが増えています。
既往症の取扱い、待機期間、免責条項を必ず確認してください。
返金・領収書・通貨換算の注意点
通貨換算はカード会社のレートと手数料に影響されます。
現地通貨建てと自国通貨建ての選択が可能な場合は、総額で有利な方を選びます。
領収書は医療費控除や保険請求に必要です。
受診日時、提供者情報、内訳、通貨、決済IDを含む形で受け取り、電子保存しましょう。
症状別の向き不向きと緊急時対応
オンライン診療は万能ではありません。
適切なトリアージと、緊急時の動線設計が鍵です。
オンラインに向く症状
軽度の上気道炎、蕁麻疹などの皮膚症状、花粉症や喘息のコントロール、胃腸炎の初期対応、慢性疾患の継続相談、睡眠や不安の相談はオンラインに向きます。
検査結果の説明やセカンドオピニオンも相性が良いです。
在宅でのバイタル測定や写真・動画の活用により、対面に近い情報が得られることがあります。
ただし見た目の重症感、脱水、呼吸困難などを伴う場合は直ちに対面へ切り替えます。
対面が必要なレッドフラッグ
胸痛、突然の息切れ、片側麻痺、意識障害、激しい腹痛、頸部硬直、重度の外傷や出血、妊娠に関わる緊急症状は救急要請の対象です。
小児のぐったり、唇の紫色化、けいれんも同様です。
海外では緊急電話番号や最寄り救急の位置を事前に控え、言語が不安な場合は通訳サービスを備えましょう。
オンラインの医師も、レッドフラッグを検出したら直ちに現地受診を勧告します。
時差と言語を乗り越える工夫
時差は早朝や深夜のスロットを活用し、事前質問票で情報量を確保します。
症状経過のタイムラインや写真整理は診療の質を高めます。
言語は医療通訳やチャット翻訳の併用が有効です。
薬の一般名、用量、服用タイミングをシンプルに記載した指示書が役立ちます。
海外から受診するための実践手順チェックリスト
以下の手順を踏むことで、海外からのオンライン診療を安全かつ効率的に受けられます。
準備、当日、受診後の三段階で整理します。
受診前の準備
契約中の保険のテレヘルス特約、自己負担、指定プラットフォームを確認します。
提供者の国・免許・提供可能地域、処方の範囲、返金条件をチェックします。
本人確認書類、現地住所、連絡先、緊急受診先、既往歴、内服、アレルギー、検査結果を準備します。
通信テストを行い、静かな環境、カメラ、マイク、照明を整えます。
- 症状の発症時刻と経過
- 体温、脈拍、血圧、SpO2などの数値
- 内服の一般名と用量
- 希望する連絡手段と時間帯
受診当日の流れ
チェックイン時に居場所の国・州・都市を申告し、本人確認を完了します。
同意文書を読み、遠隔診療の限界や緊急時対応の方針を理解します。
医師の問診に沿って、時系列で症状を説明し、画像や検査結果を共有します。
治療計画、処方や紹介状の取扱い、フォローアップの方法と時期を確認します。
受診後のフォローと記録管理
指示書と処方の内容を再確認し、現地での受け取りや紹介先の予約を行います。
症状の変化を記録し、悪化時の連絡先と閾値をあらかじめ決めておきます。
領収書や診療サマリーは安全に保管し、保険請求や主治医への共有に備えます。
データは暗号化ストレージに保存し、不要となったコピーは適切に削除します。
よくある質問
海外からのオンライン診療で頻出する疑問に簡潔に答えます。
個別の可否は各国の規制や提供者のポリシーで異なるため、最終的には事前確認が必要です。
日本の処方箋で海外の薬局は使えるか
日本で発行された処方箋は国内薬局での調剤が前提であり、原則として海外の薬局では使用できません。
現地での服薬が必要な場合は、現地医師への紹介を受ける運用が一般的です。
医薬品の国際郵送は国によって厳しく制限されるため、安易な郵送は避けましょう。
持参薬の携行は滞在期間や薬の種類により許容範囲が異なります。
現地医師の紹介は受けられるか
多くの医療機関や保険会社は、現地の提携医療機関の紹介が可能です。
紹介状や診療サマリーを持参すると、スムーズに引き継げます。
言語や保険の適用可否、予約方法、支払い方法も合わせて案内を受けると安心です。
夜間や週末の対応可否も確認しましょう。
子どものオンライン診療は可能か
小児もオンライン診療は可能ですが、年齢や症状により対面が望ましい場面が多くあります。
保護者の同意と同席、ワクチン歴や体重の情報、写真や動画の準備が役立ちます。
呼吸困難、ぐったり、脱水徴候、反復嘔吐、高熱の持続などは現地での緊急受診を優先します。
安全第一で判断しましょう。
まとめ
海外からのオンライン診療は、制度、ライセンス、処方、保険、セキュリティという複数のハードルを丁寧に乗り越えることで、安心と利便性を両立できます。
重要なのは、可能かどうかを早めに確認し、必要に応じて現地医療へ切り替える柔軟性です。
準備として、保険の特約確認、本人確認書類、既往歴と内服リスト、緊急受診先、通信環境を整えることが効果的です。
処方は現地で完結させる前提で計画し、データ保護と同意の手続きを踏みましょう。
オンライン診療は万能ではありませんが、上手に活用すれば、タイムゾーンや距離の壁を越えて継続的なケアを実現します。
安全と法令順守を最優先に、あなたに合った受診ルートを設計してください。